博多のラーメン文化は「豚骨」だけじゃない。料理人たちが手掛ける非豚骨系3選

福岡といえば豚骨、豚骨と言えば福岡と、必要十分条件のような知名度となっている「豚骨ラーメン」。しかし最近、福岡では「非豚骨系」なるジャンルがにぎわっている様子。今回は、現役の福岡民放局のプロデューサーが、こっそり収集してきた情報を紹介してくれます。

フクリパ読者の皆さん、はじめまして。福岡の民放で番組制作をしている傍ら、SNSで外食日記を書いていたら編集部から声をかけていただき、このたび不定期ですが記事を書くことになりました。どうぞよろしくお願いいたします。

博多はラーメンに対する階層が深い

さて、テーマは「福岡非豚骨系ラーメン探訪」。

九州以外の方にとっては、ラーメンといえば福岡イコール豚骨でしょう。たしかに老舗ラーメン店や、天神・中洲に点在する屋台のラーメンはほぼ豚骨。福岡人にとって、「〆はラーメン」はもちろん、「ランチにラーメン」も「小腹が空いたらラーメン」も日常です。

しかしここ2〜3年以内に新たにオープンしているラーメン店は、意外にも醤油や鶏白湯、味噌ラーメンを売りにしているところが少なくないんです。その理由を過去に取材したとあるラーメン店の店主はこう教えてくれました。

「今は、新規で豚骨ラーメンの店を出す方が厳しいです。豚骨ラーメンは既存店が凄すぎて」

既に有名な豚骨ラーメン店には根強いファンがついていて、それを崩すのは至難の技だとか。豚骨以外のラーメンなら個性を出しやすい、ということなのでしょう。

さらに今回ご紹介する3店舗に至っては、どの店も「ラーメン以外のジャンルの料理人が手がける」非豚骨系です。

フレンチの名店出身の料理人、老舗や大使館で料理長を務めたシェフ、和食の名店を渡り歩いてきた料理人と、凄腕たちがラーメンにかけた想いからも、博多のラーメンの階層の深さが伺えます。

では早速、ラーメン天国であるからこそ、多様なラーメンカルチャーが育ちつつある博多の一面をお届けしましょう。

【めんとスープ Ando Noodle Gastronomic】 「アジアのベストレストラン50」を連続受賞しているフレンチの名店出身の料理人が作ったラーメン店

福岡市西中洲の「La Maison de la Nature Goh※」。独自の世界観が織りなすフレンチのコース料理がいただける名店中の名店です。そこで料理人をしていた安藤寛さんが独立し、2022年4月14日、福岡市早良区野芥に開いたのがラーメン店「めんとスープAndo Noodle Gastronomic」。大きな看板もなく至ってシンプルな店構え。初めて訪れたときはうっかり通り過ぎそうになりました。

今回は中華そば。お盆に載せて運ばれてきた器にびっくり。なんと蓋がついています。蓋を開けて立ち上る湯気に鼻を近づけると、醤油の香ばしい香りが鼻腔を抜け、一気に食欲が増します。

中身の見た目は至ってシンプルですが、箸置きの役割もしている小皿には、海苔が折り重なるように置かれています。「海苔の間にはレモンピールを挟んでミルフィーユ状にしています。食べている途中で入れて、味変を楽しんでください」安藤さんが不敵な笑みを浮かべながら案内してくれます。

食べ進めて海苔を投入すると、味変どころか別物!レモンの酸味がスーッと爽やかな、洋食でいただく和風スープのような奥深さ。これ、もしかしたら最初から投入して存分に味わってもいいかもしれません。

さらに、食べている途中にオプションで追加した「トリュフ玉子」が運ばれてきました。

なんと!玉子に注射器が刺さってる!

シリンダー内には謎の黄色い液体。どうやらこれがトリュフオイルらしく、卵黄内に注入してからスープに投入する心憎い演出が施されています。ちなみに、お店のインスタには「#麻薬卵」という怪しいハッシュタグが付けられていました。

ところで、メニューでさらっと紹介した「オマールブルーラーメン 時価」というのが気になっているあなたは、ぜひご自身の目で確かめてください。ちなみにこの日、「時価」は6,000円でした。

■住: 福岡市早良区野芥3-14-17
■営: 12:00〜15:00/18:00〜21:00(Lo20:30)日曜日のみ12:00〜15:00
■休: 木曜日
■店舗詳細はこちらhttps://www.instagram.com/mentosoupe/

>>2店舗目は「淡麗らぁ麺明鏡志水」

【淡麗らぁ麺明鏡志水】 駅のホームのお店からスタートしたラーメン店

JR博多シティ・博多デイトス地下1階「博多のごはん処」エリアにある「淡麗らぁ麺明鏡志水」。2021年、JR博多駅の5・6番ホームで期間限定営業中、わざわざ入場券を買って食べに訪れた人もいたという噂のお店です。

老舗料亭『京都瓢亭』の料理長やフランスの日本大使館公邸料理長を務めた秋吉雄一朗さんが手がける一杯は、ラーメンというジャンルではなく和食の域に属する麺料理。スープ…いや、だしを口に含むと優しく広がるその風味。大袈裟ではなく、麺を食べる前に飲み干してしまいそう。

写真の通り綺麗に盛り付けられた麺は、小麦がもつほのかな甘味を纏っています。2種類の鶏と豚あわせて3種類のチャーシューもそれぞれ素材の旨みを存分に味わえます。ラーメンの海苔といえば、パリッと四角いのが1枚ないし2枚というのが定番ですが、ふわっとした感じの刻み海苔がまた湯気で優雅に踊ってそれがまたお上品。追加トッピングにトリュフなんかも…と思ってしまいましたが、懐事情に合わせて煮卵止まりでした。チャレンジしたい方はぜひどうぞ。

料理同様、女将さんの対応もラーメン店のそれではなくまるで料亭かどこかの接客。飲んだ後の〆にもいいのですが、できればアルコールで味覚が麻痺する前にじっくり味わうべき一杯でした。

なお、15時以降はサイドメニュー・アルコールメニューともに充実して、ラーメン店の範疇を越えた飲食店になります。

■TEL: 092-710-6377
■住: 福岡市博多区博多駅中央街1−1 博多デイトスB1F
■営: 10:00〜22:00
■店舗詳細はこちらhttps://www.jrhakatacity.com/gourmet/meikyoshisui/

>>3店舗目は「麺屋割ぽう ツクリ茸」

【麺屋割ぽう ツクリ茸】 お茶の旨味と濃厚なマッシュルームが織りなす新感覚のスープ

この連載のタイトル通り「探訪」の名に相応しい、簡単には見つからないお店が、福岡市南区清水にある「麺屋割ぽう ツクリ茸」。路地に面しておらず、私道を入り、長屋の端にある一軒の民家に店を構えています。路地からかろうじて見える「酒」と書かれた赤い提灯が目印です。

去年、2021年10月16日オープンしました。店主の吉原さんは、日本料理を中心に料理人を始めたそうです。ご本人のインスタグラムには、立派なフグをさばいている動画もあげられています。そこからラーメンに進んだのかと思いきや、フランス料理やイタリア料理も手がけてきたのだそう。

引き戸を開けて、スリッパに履き替え店内を進むと、眼前に広がるのは中洲を通って博多湾へと流れる那珂川。桜の季節にはきっと美しい風景が広がることでしょう。

ここでいただけるのは、天草大王の鶏がらスープをベースにした塩ラーメンと醤油ラーメン。どちらもかなりあっさりめに仕上げているので、好みで塩や醤油を追加できます。

塩ラーメンには、胸肉ともも肉の2種類の鶏チャーシューとレモン、ローズマリー、そして謎の繊維質の植物が浮かんで出てきます。これは「真菰茶」、お茶の旨味成分をスープに加えているのだそう。

そこへ、別皿に載せられた、天草大王のつくねと、店名にもなっているツクリ茸(マッシュルーム)を投入。まるでトリュフオイルのような濃厚なうま味が加わります。

別の野菜皿にはドライトマトなんかも載っていて、まるで洋食を食べているかのようでした。ちなみに麺は名店の証「製麺屋慶史」製でした。

サイドメニューの天草大王のかしわ飯、漬けの卵黄と鶏そぼろ、さらに卵焼きとたまり漬けのアボカド(漬物のような感じ)が付いて、こちらも優しい味。

天草大王の親子丼や、ミルクプリンがついた「真菰茶セット」といった気になるメニューがありますが、こちらはまたの機会にいただきます。

昼ラーメンは1日限定20杯となっているので、事前に予約して行くのがおすすめです。すぐ近くにコインパーキングがあります。

■TEL:092-551-3833
■住:福岡市南区清水2丁目1-48
■営:昼 11:30〜15:00 夜 18:00〜
■休:月曜日
■店舗詳細はこちら https://www.instagram.com/tukuritake.1016/

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