「お気を付けて」の季節

 200メートルほどだろうか、自宅のそばの車道沿いにアジサイがずらりと並んでいる。この季節には薄い青、赤紫、青紫の花弁が、そこだけポッと明かりをともすように通りを彩る▲九州北部地方が梅雨入りしたとみられる、と11日に発表された。「つゆ」と読むのは「露」の連想とか、梅の実が熟して「潰(つひ)ゆ(つぶれる)」ためだとか、長雨で食べ物が「費(つひ)ゆ(損なわれる)」とか、諸説あるらしい▲そんな湿った梅雨時は気も晴れないが、雨に濡れたアジサイは季節の贈り物のように美しい。〈あぢさゐの青の深きに梅雨注ぎ昨夜(よべ)より寒き昼間と思ふ〉宮柊二(しゅうじ)。梅雨の前半は昼間でも肌寒い「梅雨寒」がある。どうぞお気を付けて▲ここ数年は、身の危険を避けるため、祈るように「お気を付けて」と小欄で呼びかけることが増えた。梅雨のさなか、毎年のように「数十年に1度」の豪雨が襲う▲とりわけ7月の上旬は、非情な雨のことを必ずつづっている。局地的に、長い間、猛烈な雨をもたらす「線状降水帯」がにわかに迫るのを、現代の英知を集めてもなかなか読めない、と歯がみしながら書くことも多い▲〈紫陽花(あじさい)やきのふの誠(まこと)けふの噓(うそ)〉子規。人の心の移ろいやすさを詠んでいるが、梅雨の空も同じだろう。にわかに一変する空模様に、心して備える時季が来た。(徹)

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