長男の予定外の進学希望に不安になる40代夫婦。次男の学費と老後資金は準備できる?

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。
今回の相談者は、45歳、会社員の女性。会社員の夫と高等専門学校の長男と中学生の次男と暮らす相談者。長男が、予想外に大学への編入、さらに院進を希望。長男の希望を叶えて次男の進路や老後資金は準備できる? FPの高山一惠氏がお答えします。


想定外の教育費が必要となりました。このままで老後は大丈夫でしょうか?

長男は5年生の高専で寮に住んでいます。来年卒業予定で、就職するかと思っていましたが、大学へ編入(3年に編入)したいと言い出し、さらに大学院まで行くかもしれないとの事です。国立大学へ進学の予定ですが、遠方となるため一人暮らしとなり、仕送りが必要となります。理系のため、バイトをする時間はなさそうです。

これまでの学費等は、毎月の収入で賄ってきました。長男用に、400万を貯めていましたが、毎月奨学金を月5万円ほど借りてもらおうか悩んでいます(その場合、仕送りは4〜5万ほどの予定。家賃込み)。

次男も2年後には受験を控えており、進学先は未定ですが、スポーツをしているため、もしかするとスポーツ推薦となり私立高校に進学する事になるかもしれません。長男が卒業するまであと4年、私も現在の仕事を続けようと思っていますが、4年後はできれば、扶養内の仕事に切り替えたいと考えています。現在の貯蓄ペースで私が収入を減らしても、老後は大丈夫なのかお聞きしたいです。

【相談者プロフィール】

・女性、45歳、会社員、年収300万円

・夫:48歳、年収630万円 子ども:長男20歳、次男13歳

・住居の形態:持ち家(戸建て、和歌山県)

・毎月の世帯の手取り金額:51万円(夫32〜38万円、私19万円)

・年間の世帯の手取りボーナス額:130万円

・毎月の世帯の支出の目安:32万円

・住居費:6万9,000円

・食費:4万円

・水道光熱費:1万5,000円

・教育費:6万円

・保険料:2万1,000円

・通信費:1万8,000円

・車両費:1万円(ガソリン代)

・お小遣い:5万1,000円(夫3万円、私1万円、長男1万円、次男1,000円)

・その他:太陽光パネル設置費月1万円

【資産状況】

・毎月の貯蓄額:7万

・現在の貯金総額(投資分は含まない):1,500万円

・現在の投資総額:4万5,000円

・現在の負債総額:1,100万円(住宅ローン2,350万借入、35年ローン、金利0.975%、夫63歳時完済[途中200万繰り上げ返済済])

・ボーナスからの年間貯蓄額:80万円

【その他】

・主人は、29歳から会社員となり厚生年金を掛けています。

・45歳から主人のみiDeCoを(2万3,000円)しています。

・3年前から、夫婦それぞれ毎月約1万円ずつ、年金型の変額保険に入っています。

・車2台所有。年間の車費は約15万円ほど(交通不便な地域のため2台必須。ボーナスより支出)。1台は10年を過ぎましたので、近年買い替え予定(100万円ほどを現金一括で)

高山:ご相談ありがとうございます。予定外の教育費が発生しそうとのこと。想定外の教育費がかかると、老後資金が貯められるのか心配になってきますよね。まずは、老後資金にいくら貯めれば良いのかを把握しましょう。その上で、今後お子さんにかかる教育費を見える化し、現在の貯蓄ペースで老後資金が貯められるのか考えていきましょう。

老後にかかる支出の内容は

まず、老後にどれくらいのお金を準備したらよいのかを考えてみましょう。老後の生活を考えるにあたり、大切なことは、老後の生活を具体的にイメージすることです。老後の生活の主な支出は、(1)日常生活費、(2)臨時出費、(3)医療費・介護費です。

老後の日常生活費の年間支出は、現在の1ヶ月の生活費を12倍すれば、おおよその金額がわかります。ただし、老後の生活費は現役時代の生活費の7〜8割になるともいわれます。総務省統計局「家計調査」(2019年)によると、70歳以上の生活費は現役時代(50〜59歳)の生活費の68.1%となっています。このことから、現在の生活費の7割として試算してもよいでしょう。

考え方としては、老後の年間収入から老後の年間支出を差し引いた金額が年間で足りない生活費の金額となります。そこで、老後の年間収入の柱となる年金の金額を、ざっくりとでもよいので、ねんきん定期便やねんきんネットなどを利用して確認しておきましょう。

老後の生活費はいくら必要?

ご相談者さんの年金加入の詳細がわからないので、参考までに2019年の家計調査を利用して、1ヶ月の生活費の平均とそこからわかる老後までに必要な金額を見てみます。

高齢夫婦無職世帯の実収入の平均額は、23万7,659円、支出の合計(消費支出+非消費支出)は、27万929円ですから、毎月の不足額は約3万3,000円。この収入・支出が65歳から90歳までの26年間続くとします。これに加えて、医療費や介護費用を準備しておきたいところです。目安は1人あたり500万円です。さらに、臨時出費として「家具・家電の買い替え」「家のリフォーム代」「レジャー費」「冠婚葬祭費」「子どもの結婚資金の援助費用」「孫への援助費用」などがあります。

上記を踏まえると、65歳まで働き、持ち家を前提とすると、老後までに夫婦で2,000万円〜2,500万円を準備しておくのが一つの目安となります。

今後の教育費を「見える化」する

老後までに準備したい金額を把握したところで、次に把握しておきたいのが今後かかる教育費です。長男、次男それぞれの今後の教育費について考えます。

長男は、現在5年生の高等専門学校に通っておられるようですが、卒業後は、国立大学の3年に編入し、大学卒業後は大学院に通いたいそうです。1人暮らしとなるため、仕送りが必要になるのですね。

ちなみに、国立大学の理系の学費は、私立大学等の平成30年度入学者にかかる学生納付金等調査結果を見ると、入学金が28万2,000円、年間の授業料が53万5,800円。上記の金額から2年間の大学の学費は約135万円となります。

次に大学院の学費ですが、国立大学の大学院の場合は、大学の学費とほぼ同じところが多いため、2年間の大学院の学費は約135万円となります。したがって、大学、大学院の学費の合計は270万円となります。

一人暮らしの学生の生活費はいくらかかる?

次に考えたいのが、長男の大学進学後の生活費です。全国大学生活協同組合連合会の「第56回学生生活実態調査の概要報告」をみてみると、1人暮らしの学生の生活費の平均は約12万円となっています。ご相談者さんの仕送り金額の予定が4、5万円とのこと。足りない分は、長男に奨学金を借りてもらうことなどで調整を考えていらっしゃるようですね。

仮に仕送り代を毎月4万円とすると、4年間で192万円。学費と合わせると462万円となります。長男に生活費の節約をしてもらったり、奨学金を数万円程度借りてもらったりする必要がありますが、長男のために準備していた400万円でほぼ賄うことができます。

私立高校に行く次男の学費はいくらかかる?

次男にかかる学費についても見てみましょう。私立高校に進学する可能性が高いとのこと。高校卒業後の進学については記載されていませんでしたので、ひとまず、高校進学までを試算します。

私立高校の授業料については、どこの高校に進学するのかによって違ってきますが、文部科学省令和3年度私立高等学校等初年度授業料等の調査結果を見ると、私立高校の学費は入学金16万3,279円、授業料は44万1,101円、施設整備費等14万8,315円で合計75万2,696円となっています。3年間の学費は約193万円になります。

参考までにご相談者さんのお住まいの和歌山県の調査結果を見ると、私立高校の学費は入学金15万7,778円、授業料は45万6,911円、施設整備費等8万9,111円で合計70万3,800円となっています。3年間の学費は約179万円になります。

ただし、私立高校には授業料無償化の制度(注)があり、年収590万円未満の世帯であれば私立高校授業料は実質無償になります。ご相談者さんの場合は、夫の年収が590万円を超えていますので、支援金の金額は、11万8,800円。3年間で約35万円が支給されることに。上記の学費179万円から35万円を差し引くと実質負担は144万円となります。ざっくりとですが、家計から毎月4万円程度を負担するイメージです。

(注)扶養家族の人数、控除の有無、働いている人の人数、都道府県によって目安となる年収が変わります。

現在の家計ならば次男の私立進学も可能

現在の家計の状況であれば、次男が私立高校に進学したとしても毎月の家計から学費を捻出することができそうですね。仮に次男が大学などへ進学するとなると、また試算は大きく変わってきますが、上記の試算や家計の状況から長男への仕送り金額をもう少し増やせるかもしれません。奨学金は、将来、長男が返済していくお金なので、長男の将来のライフプランを考えると、できるだけ金額は少なく借りることを考えたいですね。

老後資金は準備できる?

では、上記の教育資金を踏まえて、老後資金が準備できるのかどうかを貯蓄状況から見てみましょう。

貯蓄の状況を見ていると、現在は、毎月7万円貯蓄ができ、ボーナスからも年間80万円貯蓄できているようです。長男の大学院卒業までは現在の働き方を続ける予定ですから、長男の学費を準備している400万円でほぼ賄うことができれば、4年間はこの貯蓄のペースを続けることができると想定されます。となると、

毎月の貯蓄:7万円×12ヶ月×4年間=336万円
ボーナスからの貯蓄:80万円×4年間=320万円

合計656万円貯蓄できることに。繰り上げ返済の費用や車の買い替えの資金も捻出できそうです。

よほどの大きなプラン変更がなければ、老後の資金も準備可能

加えて、夫が45歳からiDeCoに加入しています。仮に45歳から60歳まで毎月2万3,000円の掛け金を年利4%で運用することができれば、約560万円になります。さらにiDeCoは、所得税、住民税も安くなる効果があります。夫が65歳まで継続して企業で勤務すれば、今年の5月からiDeCoは65歳まで加入できることになりました。夫が65歳までiDeCoに加入したとすると、運用期間は20年となります。毎月2万3,000円の掛け金を年利4%で20年間運用することができれば、約840万円となります。ご夫婦で年金型の変額保険にも加入されているので、こちらの分も加えることができますね。

また、上記の運用資産の他に、現在貯蓄金額が1,500万円とのこと(長男のために準備された400万円は別に準備できているものとして含んでいません)。仮にご相談者さんが働き方を変えて、貯蓄がほとんどできない状態になったとしても、現在の貯蓄に手をつけずに試算通りにいけば、老後のお金も準備できそうです。実際には、夫のボーナスや毎月の家計からも貯蓄できると思いますので、よほどの大きなプランの変更がない限りは、今の堅実な暮らしを続けていけば大丈夫でしょう。

とはいえ、お子さんの想定外の進学は、家計への影響が大きいことは事実。次男の場合も想定外の進学があるかもしれないと思い、シミュレーションをしてみてもよいかもしれませんね。今回のご回答がご相談者さんのご参考になれば嬉しいです。

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