トーンダウン

 意中の人はいますか、と問われて「まだいない。県政に資する優秀な方に」と答えたのは、僅差の初当選から一夜明けたインタビューだった。3月県議会の所信表明では「女性の意見を施策に反映させるため、実現を検討する」と改めて意欲を語った▲大石賢吾知事が知事選の公約に掲げていた「女性副知事の登用」の実現が先送りされそうだ。してみると、所信表明の「検討する」は「先延ばし」を意味するお役所言葉の“検討”に見えてくる▲4月に副知事になった平田修三氏にも、再任の方向が報じられた平田研副知事の人事にも、何ら異議のないことはきちんと前置きしておきたい。問題はピカピカの若い新知事が早々に公約をトーンダウンさせてしまったことだ▲女性の副知事起用はきっと「女性活躍・登用」の象徴的な出来事になるだろうが、それ以上でも以下でもないし、誰かが「女性であること」を理由に大抜擢(ばってき)されるとしたら、そこには別の意味で問題を感じなければならない▲ただ、数ある選挙公約の中で、最も実現が容易だったのは間違いなくこの項目だ。知事の決断一つにかかっているのだから▲高名な哲学者の言葉を思い出した。「約束とは、言葉ではなく行動である」-。公約の後退やお役所流の話法に慣れてしまうのはまだ早過ぎる。(智)


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