甲子園予選前に“引退試合” 3年生、それぞれの集大成「必死にやり切った」

悲しみ、悔しさを乗り越えて全力プレーした海星の宮本(右)と熊川=県営ビッグNスタジアム

 甲子園切符を懸けた全国高校野球選手権長崎大会(7月7日開幕)を前に、選手層の厚い学校では毎年、一足早くプレーヤーに区切りをつける3年生たちがいる。病気、けが、激しい競争によるメンバー漏れ…。26日夜、長崎市の県営ビッグNスタジアムで行われた海星-長崎商の“引退試合”には、入学時からコロナ禍にも苦しんできたそれぞれの2年3カ月の集大成があった。

■父との別れ

 第1シードで大会に臨む海星の8番左翼手で出場した宮本航は、昨年10月27日に父・純さんを亡くした。44歳、心筋梗塞だった。三菱重工長崎軟式野球部主将も務めた父は、南陽小3年で競技を始めた自らにとってコーチであり、尊敬できる存在だった。「野球で怒られることはあまりなかった。人としてどうあるべきかを言われ続けてきた」
 月命日の法事を済ませて迎えたこの日の試合。「どこかで見てくれている。厳しい海星で必死にやり切ったよと報告したい」と全力でグラウンドを駆け回った。スタンドで見守った母・希望さんは「すごくいい仲間にも支えてもらって。“試合に出る子のために自分ができることを”とつらい中でも頑張っている。人間的に成長してくれた」と目を潤ませた。

■一日限定で

 同じく海星で指名打者としてバットを振った熊川幸太朗は、1月5日の練習後に腰痛を訴えて病院へ行った。検査結果は予想外の運動後急性腎不全。「頭が真っ白になった」。練習に参加できなくなり、母・望さんは「やめてもいいし、やりたいように」と寄り添ったが、息子の野球への思いはぶれなかった。「最後までやり切ることに意味がある」。サポートに回り、現在は記録員を任されている。
 この日は一日限定の背番号17で出場。安打や四球で出塁し、滑り込んでユニホームは真っ黒になった。土井首中時代まで主力で活躍して、入学後は「うまくいくことはほとんどなかったけど、悔いはない。次は夢の舞台、甲子園でスコアを書きたい」と気丈に前を向いた。

■輝いた笑顔

7回裏長崎商1死一、二塁、左越え2点二塁打を放ち、塁上でガッツポーズする吉田=県営ビッグNスタジアム

 県を代表する伝統校同士の、いつもとちょっと違う一戦。主力の同級生らもこの日ばかりは裏方や応援に徹し、仲間を盛り上げた。10-3で勝った長崎商の選手たちは2年前、コロナ禍による甲子園中止に泣き崩れた先輩の姿を忘れず、昨夏、全国16強まで勝ち上がった。非日常が続く中、みんなで多くの壁を乗り越えてきた。
 4番一塁手で七回に左越え2点二塁打を放った吉田紘斗の笑顔はナイター照明の下、誰より輝いた。「打った感触とかは覚えていないけど、3年生全員が打たせてくれたんだと思う。団結力はどこにも負けないので」。メンバーに入れなくても腐らず、ひたむきに努力した姿は、これから本番に挑むチームを鼓舞するのに十分なものだった。


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