11万8935人

 「私たちは、もうすぐいなくなります」-被爆者ご自身の口からこの言葉を最初に聞かされたのはいつ頃の取材だったか、その時の相手がどなたで、自分はどう返答したのだったか-遠い記憶をたどりながら、何ひとつ満足に思い出せないことに愕(がく)然としている▲「前年度末時点での全国の被爆者数」を厚生労働省が発表する7月は“被爆者がいなくなる日”が少しずつ近づいていることを嫌でも思い知らされる月だ▲2日付の記事によると、被爆者健康手帳を持つ人は11万8935人で、旧原爆医療法が1957年に施行されて以来の過去最少をまた更新した▲平均年齢は84.53歳。前年に比べて0.59歳上昇した、という。全員がご健在なら当然「1歳」上がるはずの数字だ。3月までの1年間に8992人が亡くなり、県内の被爆者数も2312人減った▲厚労省の発表を2年分見比べれば「この1年間に亡くなった被爆者の平均年齢」が推計できそうだ…と思いつき、電卓をたたきかけたが途中でやめた。算数が苦手で計算が混乱してしまったこともあるが、それより何より、被爆者は数字ではない▲“その日”よ、どうか一日でも遠くに-と切実に願いながら思う。詮(せん)ない計算より先にやることがいくらでもある。残された時間は短い、と重ねて心に刻む。(智)

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