108

 硬式野球のボールの赤い糸と、除夜の鐘でおなじみ、人の「煩悩」は数が同じでどちらも108。野球は米国生まれで煩悩は仏教の教えだから偶然の一致だろう。煩悩の方は「四苦八苦」の「4×9」と「8×9」を足して108…と説かれることも▲早見和真さんの「ひゃくはち」は強豪校の野球部に所属する補欠部員が主人公の青春小説。作者自身がモデルであることを別の著作で明かしている。夏が来るたびに読みたくなる一冊だ▲最後の春と夏を前にした高2の大みそか、球友と主人公のこんな会話がいい。〈…「つまり、ボールの縫い目には108個の苦しみも込められてるっていうわけだ」「はは。何だか打てなくなっちゃいそう」「元々そんなに打ててないじゃん」〉▲自分の力ではこのチームのレギュラーなど夢のまた夢、皆を支えることを一番に考えようと決めた、でも、やっぱりメンバーに入りたい、試合にも出たい。球児たちの思いが揺れる▲…読書はひと休み。夏の甲子園・全国高校野球選手権の長崎大会があす開幕する。出場チームは51。例年以上の混戦模様と展望記事にあった▲白いボールが知っている悩みや苦しみ、痛みや涙は108で足りるだろうか。カキンと爽快な金属音を残して遠く遠く飛んでいくといい。熱戦を期待したい。(智)


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