すべての候補者は「有権者の貴重な選択肢」東京選挙区の候補者34人全員の生の声(畠山理仁)

参院選最終盤「その他の候補」を切り捨てることなかれ

 「民主主義のお祭り」である参議院議員選挙がいよいよ最終盤を迎えている。6月22日に公示された第26回参議院議員通常選挙に立候補しているのは、選挙区と比例代表をあわせて545人。総額604億円もの経費をかけた大イベントは、7月10日の投開票日に向け、各候補が全力の戦いを繰り広げている。

 全国に45ある選挙区のうち、最激戦となっているのが東京都選挙区だ。2000年代に入ってからは最多となる34人が立候補し、「定数6」を争っている。現在、大手メディアによる報道は「主な候補者」にほぼ限定されているが、本当にそれでいいのだろうか。

 すべての候補者は、立候補できなかったあなたに代わり、「有権者の貴重な選択肢」として戦っている。選挙は投票箱が開くまで結果がわからない。つまり、無駄な立候補などない。私たち有権者は選挙を通じて「現在の社会が抱える問題」「役立ちそうな政策」「有権者とのコミュニケーション方法」「ユニークな戦い方」など、社会に役立つ材料を得られる。それは立候補してくれる人たちがいて、初めて成立することだ。

 それなのに報道の量を絞ることは、せっかくの立候補を「なかったもの」にしてしまうことにつながらないだろうか。無名である自分自身を「無駄なもの」と切捨てる社会を容認してしまうことにつながらないだろうか。

 私は20年以上、選挙の現場を取材してきた。どの選挙にも学びがあった。だからできる限り、すべての立候補者を自分自身の目で目撃し、その姿を世の中に伝えようとしてきた。それは今回の参議院議員選挙でも変わらない。

東京選挙区に立候補した34人(撮影・畠山理仁)/東京都のイメージ(写真AC)

「そうは言っても、34人の候補者を自分の目で観るのは難しい」

 もちろんそうだ。だから私は34人の候補者すべてに接触してきた。公示前から接触してきた人もいる。そうしなければ、一人で全員に接触することは難しいからだ。本稿に登場する順番は、立候補届出順になっていることをご了承いただきたい(文中・敬称略)。

政界への参入障壁の高さ・セッタ 選挙に出る人は特別かもしれないが、特別である必要はない

 まずはNHK党公認、議席を減らします党推薦・セッタケンジだ。事前に「街頭演説をする予定はない」と聞いていたため、公示日に選挙管理委員会で立候補を届け出た直後に話を聞いた。セッタケンジの口から最初に出たのはメディア批判だった。

「ものすごくおかしいことが起きているんですよ。今回、私は自分の名前をカタカナ表記で届け出ています。選挙管理委員会にもカタカナ名しか伝えていませんし、選挙管理委員会はちゃんと通称認定をしてくれました。それなのに、一部の新聞メディアは『漢字表記』になっていました。私は漢字表記を希望していないのに、漢字表記にしている。これっておかしいでしょ」

セッタケンジ(撮影・畠山理仁)

 セッタケンジの怒りはもっともだ。通称使用が認められないなら、他にも表記が変わってくる候補が複数いる。最近は立候補者の住所も細かい番地までは公開されない。それは女性の候補者などに対する嫌がらせがあるためだ。

 それなのに、選挙管理委員会にも伝えていない「漢字での本名」がメディアによって勝手に公開されるのはどういうことなのか。もちろん公職の候補者だから本名や連絡先を明らかにすることには一定の合理性があるが、恐怖を感じる状態では「立候補しよう」という人も増えてこない。セッタケンジの立候補は政界への参入障壁の高さを改めて明らかにした。

 それはそれとして、政策を聞いた。

「3つあります。①減税と規制改革②エンタメ特区&若者経済圏特区の実現③今の既成政治家は与党も野党もいらない。だから私が今の政治家の議席を奪う」

 セッタはバイクに乗り、NHK党公認の他の候補者と合わせて5種類のポスターを都内の掲示板に貼って回った。

「このスーパーマリオ状態もあとわずか。やり残さないようにがんばります! その後は普通のオッサンに戻ります」

 選挙に立候補する人は特別かもしれない。しかし、特別である必要はない。

主張の激しさと子どもへの優しい一面・菅原 「一瞬も気が抜けない状況が続く」・山本 

 続いては日本第一党・菅原みゆきだ。桜井誠が党首を務める日本第一党は「日本という国の中では日本人が一番優遇されなければならない」という日本第一主義を掲げている。公示前には東京都庁で同党の公認候補者たちが記者会見を開いたが、党首の桜井自身は「意味がない」として記者会見に出席しなかった。

菅原みゆき・写真左(撮影・畠山理仁)

 今回の参院選で訴える党の政策は「天皇陛下は父系を堅持」「消費税ゼロ、所得税2年免除」「自衛隊改革、国防費GDP比3%以上」「日本人学生向け奨学金は全額給付」である。菅原は街頭演説で力強く訴えた。

「国土を守るため、国民の命を守るために、核の保有、核武装も提案いたします。戦争するためではございません。抑止力のためです!」

 主張は激しい。演説も勢いがある。しかし、通り過ぎる子どもが街宣車の上にいる菅原に手を振ると「ありがとう。気をつけて帰ってね」と優しく声をかけていた。

 れいわ新選組代表・山本太郎は都内の駅頭で精力的に街頭演説会を重ねている。政策は「消費税ゼロ インボイス廃止、「ガソリン税ゼロ」「季節ごとの10万円給付」「社会保険料の引き下げによる負担軽減」「大学院までの教育無償・奨学金チャラ」などだ。

 街頭演説では聴衆からの質問を受け付け、どんな質問にも答える。通常は演説終了後に片隅で行う記者からの囲み取材も生配信して公開した。そこで私は「有権者はこの国のオーナーだ」という山本に投票率の低下について質問した。

「投票に行かない方々が5割近くいるのはかなりヤバい話だと思います。でも、投票に行かない50%の力も合わせればこの社会を変えていける。たとえばですけれども、今は5割しか行かないことによって、もっとも票を集めるのがうまい人たちが勝ち続けています。資本家や一部大企業。私は別に資本家や大企業を敵視しているわけじゃない。みんな儲ければいいと思っている。でも重要なことは、みんなでよくなるような社会を作らなきゃいけないのに、一部資本家や大企業だけが儲け続けるような社会が25年続けてこられたんです。この国のオーナーにもう一度力借りたい。力合わせてひっくり返してやりたいんです」

山本太郎(撮影・畠山理仁)

 街宣が終わると、山本は走って演説会場近くのお店に一軒一軒挨拶に回って頭を下げる。

「大きな音を立ててごめんなさい。ありがとうございました」

 山本は選挙前よりも明らかに痩せていた。痩せましたね、と声をかけると「選挙ダイエットをがんばっています」と笑顔をみせた。しかし、周囲の空気は明らかに選挙前よりもピリついている。東京選挙区の定数は6。「一瞬も気が抜けない状況がこのまま続くんだろうと思います」と答えたとおり、余裕は感じられなかった。

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