金融庁のレポートを読み解く“問題の投資信託の見極め方”

金融庁が毎年作成・公開している「資産運用業高度化プログレスレポート」の2022年版がリリースされました。前回の「「ESG投信の実態とは」投資信託を選ぶために金融庁のレポートを読み解く」に引き続き、個人が投資信託を購入するうえでの留意点について書かれた部分を取り上げたいと思います。


プロダクトガバナンスとは

「資産運用業高度化プログレスレポート」が作成・公表されるようになって以来、テーマのひとつとして常に取り上げられているものに「プロダクトガバナンス」があります。

あまり耳に馴染みのない言葉かも知れませんが、同レポートによると、「資産運用会社が、顧客利益最優先の業務運営を実践するためには、『真に投資家ニーズを踏まえた中長期に安定的なリターンを確保できる商品が組成・提供できているか』、『組成時に想定した運用が実践され、投資家へのコストに見合うリターンを提供できているか』、『組成時に想定した運用を継続していくことが可能か』等の観点から、個別商品ごとに品質管理を行うプロダクトガバナンス体制を確立することが重要である」とされています。

つまり投資信託の品質管理がしっかり行われているかどうかという点が、問われているのです。

運用ファンドの本数が多い資産運用会社の問題点

今回、注目したいのが公募アクティブファンドに関する記述です。

運用しているファンドの本数が相対的に少ない資産運用会社ほど、比較的平均パフォーマンスが良い傾向が見られるというのです。

投資信託のパフォーマンスを測定する際に用いられる「シャープレシオ」は、その数値が高いほど「リスク1単位あたりの超過リターンが高い」ことを意味します。つまり取ったリスクに対して、より高いリターンが得られていることを示しているのですが、2021年12月末時点のアクティブファンドの平均的なシャープレシオが0.49であるのに対し、運用しているファンドの本数が20本以下の運用会社では、運用ファンドの平均シャープレシオが0.49を上回っているケースが見られます。

逆に、運用ファンドの本数が100本以上の運用会社だと、シャープレシオが高く、優秀な運用が行われているファンドがある一方で、シャープレシオがマイナスになっているファンドもあり、いわば玉石混交の状態になっていることが分かります。

今から30年近く前、1995年くらいの話ですが、当時の国内公募投資信託の運用本数は6,400本を超えていました。今よりもはるかに投資信託会社の数が少なかった時代の話です。運用ファンドの本数が多いということは、それだけ運用者1人あたりの負担が重くなり、運用が雑になる恐れがあります。そのため投資信託業界では運用ファンドの本数を減らす動きになり、2000年から2007年にかけては2,000本台で推移していました。

ところが、そこから徐々に増え始め、2022年5月末のそれは5,932本。もちろん運用会社の社数も、1995年時点に比べて大幅に増えていますが、とはいえ運用者1人あたりの運用ファンド数が多ければ、1本1本の運用ファンドに費やす労力は削がれます。結果、運用パフォーマンスが低下する恐れがあることは否定できません。

中小型株ファンドは付加価値を出しやすい

アクティブファンドの付加価値は、ベンチマークであるインデックスを上回るリターンを実現することです。つまり「アルファ」の追求であり、アルファの高いファンドほど、アクティブファンドとしては優秀な運用が行われたことになります。

同レポートでは、国内株アクティブファンド444本のアルファを推計しており、その結果、アルファの推計値がマイナスになったファンドが、444本中219本もあったことが示されています。

この「アルファの推計値がマイナス」になったアクティブファンドの運用パフォーマンスは、インデックスファンドのそれに劣ると考えられます。

ちなみにアルファの推計値が高かったアクティブファンドは、中小型株を中心に投資するタイプが多く、その理由として「中小型株の運用では、運用担当者による投資対象先の調査と銘柄選定による付加価値を出しやすい」と指摘しています。

ただ、大型株でも投資対象銘柄を絞ったファンドであれば、高いアルファを出せる可能性があると考えられます。最近は「厳選投資」を打ち出して、20銘柄、30銘柄という少ない銘柄数で運用するアクティブファンドも増えてきています。この手のファンドは、組入銘柄数が少ない分、運用担当者の銘柄選択眼によって付加価値を高められるものと考えられます。

ちなみに、アルファの推計値がマイナスになったファンドのうち、「有意にマイナス」つまり誤差で生じたとは思えない、何かしらの意味があってマイナスになったと推測されるファンドが32本あり、これは大手資産運用会社が運用しているファンドが多くを占めたと指摘しています。

合理的な信託報酬のファンドを探す

信託報酬の設定に関する指摘もあります。それは、信託報酬などのコストを控除する前のリターンがパッシブファンドを上回っても、その成果がコストに相殺されていて、結果的に付加価値を受益者に届けられていないファンドがあるということです。

この点については、資産運用会社内でファンドのパフォーマンス測定を厳密に行う必要がある点が指摘されています。

具体的には「信託報酬等のコスト控除後のパフォーマンス検証が適切に行われていない」、「コスト控除前でわずかな超過リターンが出ていれば『問題なし』と判断され、その超過リターンを上回る信託報酬を徴収することの問題点が組織内で検証されない」、「分配金再投資の基準価額をTOPIXの配当抜き指数と比較しており、その不合理に気付かないまま、10年以上の長期にわたり『超過リターンが出ている』と誤認」といった点が指摘されていました。

なかにはポートフォリオの70%をパッシブ運用、残り30%をバリュー株のアクティブ運用というファンドにおいて、100%アクティブ運用のファンドと同じ信託報酬を設定していたものもあったそうです。これは明らかに信託報酬の取り過ぎといっても良いでしょう。

同レポートの指摘を見る限り、国内株アクティブ運用のファンドで、良好なパフォーマンスが期待できるファンドを選ぶことの難しさが分かります。ただ、指摘されている点をスクリーニングする際の条件としてチェックすれば、付加価値の高いアクティブファンドを見つけられる確率が高まるのも、また事実なのです。

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