無事祈る夏

 天地の神もお守りください、旅ゆくあなたが家に着くまで…。「万葉集」に太宰府から奈良の都への旅の無事を祈る、詠み人知らずの歌がある。〈天地(あめつち)の神も助けよ草枕旅ゆく君が家に至(いた)るまで〉▲テレビニュースにこの一首が重なる。全国の先を行くように新型コロナ感染が急拡大する沖縄県で、医師の一人が案じていた。病院はコロナや熱中症で運ばれる人々で手いっぱいです、沖縄旅行に来た人に何かの症状があってもすぐに診療できるとは限りません、と▲「旅ゆく君」の安全は誰も保証できず、天地の神に無事を祈るしかないらしい。沖縄の姿は「少しあとの各地の姿」といわれる。人ごとではない▲県内で、全国あちらこちらで、感染者数は過去最多を“上書き”している。政府は7月前半に始めるとしていた「全国旅行支援」を見送ると正式に発表した▲とはいえ、一斉に急ブレーキを踏んでは経済が回らない。国の見送りに合わせて、県内旅行の割引を8月末まで延長することを県は決めた。感染の広がり方によっては、新しい予約を止めたり、予約分を含めて全て停止したりする▲旅人だけではない。地域経済の無事も祈る夏になった。感染が止まりますよう。経済が止まりませんよう。祈願の“成就”は、私たち一人一人の心掛けや行動に懸かる。(徹)

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