<月曜放談>わいわい感を地域に 日常にあふれるダンス 彩の国さいたま芸術劇場芸術監督・近藤良平氏寄稿

近藤良平氏

 「ダンスのある星に生まれて2022」は8月20、21日に彩の国さいたま芸術劇場で開催する、劇場に親しんでもらうためのオープンシアター。タイトルこそ、映画「7月4日に生まれて」をもじっているけれど、「ダンスは日常にあふれている」というメッセージを込めた、劇場全体を遊び場にしたようなプログラムだ。

 ダンスには少し距離を感じている人が多い印象を受ける。けれど、豊作や雨乞いを願う伝統舞踊が全国にあることから分かるように、舞い踊ることは日本人の生活に溶け込んでいた。ダンスに親しむこと自体、昔は当たり前だったと思うので、その部分を僕は引き継いでいきたい。伝統文化そのまま、という意味ではなく、今の時代や考え方を反映させて。

 「ダンスが日常にあふれている」と言っても、イメージしにくいかもしれない。僕の感覚で言えば、バレリーナ人形がくるくる回るオルゴールを見ると、すごく舞踊を感じる。それだけじゃない、空に揚がるたこ、みこしのお練りといったいろんな動きがダンス。教室や学校でダンスに触れている人も結構多い。現代だってダンスが身近にあることを知ってほしい。

 「ダンスのある星~」は2回目。感染対策をしながら、昨年より規模を拡大して開催する予定だ。美術館で絵画を見るように舞台上でダンサーを鑑賞する公演「ラ・ラ・ラ シアタートリップ2100」をはじめ、ミュージシャンと一緒に練り歩いたり、童謡「いぬのおまわりさん」をダンスにしたりと、さまざまなタイプのダンスに出合える。キッチンカーやマルシェもあるし、後夜祭では、埼玉の新しい盆踊り「さいさい盆踊り」を披露する予定だ。

 最寄り駅から劇場まで一体感をもたせたくて、冗談まじりに「与野本町駅からトゥクトゥクを走らせたい」といろんな場所で言ってたら、オープンシアターで電動トゥクトゥクを走らせることに! 言ってみるものだと感慨深いし、素直にうれしい。

 人はどこかでお祭りみたいな「特別な日」を求めている。人間の営みに必要不可欠で、実際、結婚式や七五三のような祝祭が繰り広げられている。ダンスにも人生の彩りや豊さを生み出す役割があると思っている。

 主宰するダンスカンパニー「コンドルズ」も、男性メンバーが学ラン姿で盛り上がる、文化祭的なノリがある。世相が暗い今、ダンスで「ハレの日」を生み出すために、自分は何ができるのかということをよく考える。オープンシアターを続けることで、この「わいわい感」が地域にも広がっていくことを願っている。

■近藤良平(こんどう・りょうへい) 彩の国さいたま芸術劇場・芸術監督

 振付家、ダンサー。4月から彩の国さいたま芸術劇場(さいたま市中央区)の芸術監督を務める。1996年にダンスカンパニー「コンドルズ」を立ち上げ、約30カ国で公演。コンドルズは2006年からほぼ毎年、同劇場で新作公演を行っており、埼玉と縁が深い。NHK番組や映画などの振付も担当。第67回芸術選奨文部科学大臣賞受賞。東京都出身、南米育ち。横浜国立大卒業。53歳。

 次回は日本薬科大学特任教授の久保正美氏です。

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