転職で収入が半分以下になる36歳独身男性。転職後は月14.5万でやっていける?

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。
今回の相談者は、36歳、独身、会社員の男性。2年後に他業種への転職を予定している相談者。転職にともない、収入が現在の半分以下になりそうとのこと。生活は成り立つのでしょうか? また何を準備すればいいでしょうか? FPの氏家祥美氏がお答えします。


他業種への転職で年収が激減するので、今の段階でできる備えなどあれば知りたいです。

現在、会社勤めと並行して専門学校へ通っており、2年後の卒業に向けた転職を考えております。まったく違った分野への転職であり、高い収入の見込める業種ではありません。おそらく現在の二分の一から三分の一程度になると予想しています。

節約を習慣にして支出を押さえる(貧乏に慣れる)、預貯金を投資信託(つみたてNISAなど)に切り替える。企業DCのマッチングやふるさと納税を満額で行い、初年度の控除を少しでも増やしておく。

など、幾つか取り組んでいます。学費については教育ローンを組んでおり、現在の仕事をしているうちに完済予定です。学校を通して転職が具体化したところで、今より安い賃貸への引っ越しも考えています。

この年齢での転職になるため、結婚、持ち家、マイカーなどは今後の人生で考えてはおりません。地元に暮らす両親に今後、介護が必要にならないかという点だけが心配です。

【相談者プロフィール】

・男性、36歳、会社員、独身

・住居の形態:賃貸(一人暮らし、関東地方)

・毎月の世帯の手取り金額:29万円

・年間の世帯の手取りボーナス額:100万円

・毎月の世帯の支出の目安:22万円

【毎月の支出の内訳】

・住居費:7万5,000円

・食費:3万8,000円

・水道光熱費:9,000円

・教育費:5万8,000円

・保険料:4,000円

・通信費:4,000円

・お小遣い:2万円

【資産状況】

・毎月の貯蓄額:7万円

・ボーナスからの年間貯蓄額:30万円

・現在の貯金総額(投資分は含まない):330万円

・現在の投資総額:250万円

・現在の負債総額:60万円

氏家:現在、会社勤めをしながら専門学校に通っているご相談者さん。専門学校で学んだことを活かして2年後の卒業に合わせて転職を予定しています。未経験分野への転職となるため、転職後の収入は現在の半分もしくは三分の一程度になるかもしれないということです。

収入が半減するのはつらいところですが、未経験分野の仕事に飛び込むには、低賃金、時には無料のボランティアであっても、その分野の経験を積んでいくことが実績につながるというもの。経験や実績が次の実績を生むなかで、自身や信頼を獲得していきます。

収入が半減しても暮らしは成り立つのか

前に進むにあたっては、収入が減っても暮らしが成り立つかどうかは気になるところですよね。ご相談者さんの現在の状況と家計について、順番に見ていきましょう。

まず、現在の状況ですが、ご相談者さんは賃貸住宅に一人暮らしをしています。教育ローンの残債が60万円ありますが、これは今の会社に勤め続けるあと2年間のうちに完済する予定です。守るべき家族や長期で返済するローンなどがないため、身軽に転身しやすい状況といえるでしょう。

続いて家計の状況です。毎月の支出の内訳は以下の通りです。
・住居費:7万5,000円
・食費:3万8,000円
・水道光熱費:9,000円
・教育費:5万8,000円
・保険料:4,000円
・通信費:4,000円
・お小遣い:2万円
・その他1万2000円
【合計】22万円

現在、手取り月収は29万円あります。毎月7万円を貯蓄して残った22万円の範囲内で暮らしています。転職後、手取り月収が半減した場合には、生活費を29万円の二分の一の14.5万円以内に収める必要があります。

14万5000円以内の生活は可能か

現在22万円ある支出の中で、大きな割合を占めるのが教育費と家賃です。教育費5万8,000円が専門学校の授業料等と想定すると、卒業後はこの費用がいらなくなります。家賃7万5,000円は、収入半減後には家計の大きな負担となります。今すぐにでも引越したいところではありますが、転職先次第で住む場所が変わる可能性もあるなら、しばらく据え置くしかありません。現在よりもマイナス2万円の5万5,000円程度で探せると家計に少し余裕が生まれます。

このほか、今すぐ始められる見直しとしては、保険料と食費があります。保険料4,000円を共済などに切り替えた場合、終身保障ではなくなりますが、月額2,000円で医療保障とお葬式代程度の死亡保障がつけられます。食費は現在の3万8,000円を使っていますが、あと3,000円減らしましょう。すでに頑張って切り詰めていると思いますが、1日1,000円×30日=3万円、あとの5,000円でお米や調味料などと考えて、3万5,000円の予算で頑張ってみましょう。

見直しポイントは以下の通りです。
・住居費:7万5,000円→5万5,000円(2年後、転職先が決まってから)
・食費:3万8,000円→3万5,000円
・水道光熱費:9,000円
・教育費:5万8,000円→0円(2年後、専門学校が終わってから)
・保険料:4,000円→2,000円(共済に切り替え)
・通信費:4,000円
・お小遣い:2万円
・その他1万2,000円
【合計】22万円→見直し後の合計は、13万7,000円

上記の通り、すべて順調に見直せたとすると、1か月の生活費は13万7,000円まで抑えられます。収入が現在の半分の14万5,000円になったとしても。何とかやって行ける目途が立ちました。

ただし、いくつか注意店もあります。家賃は今回、2万円の見直しとしましたが、住む場所によって家賃相場は異なるため、勤務先によっては難しい場合もあります。また、専門学校を卒業後につく仕事が専門職の場合、技術や知識を磨くために定期的に勉強会への参加が必要だったり教材を購入したりと卒業後も経費が掛かる場合もあります。そのあたりのコストについても情報収集もしながら、現実的な予算を見定めていきましょう。

ローン返済と引越し費用など特別費に注意

現在、貯蓄が330万円、投資が250万円ということで、合計580万円の金融資産をお持ちです。転職は2年後の予定ですから、さらに1年あたり114万円(毎月7万円×12カ月=84万円、ボーナス貯蓄30万円)貯蓄を積み増すため、2年後には合計808万円になる見込みです。

一方で老後を迎える前に出ていくお金もあります。転職までに教育ローン60万円を完済する予定があるほか、引越しをする場合には、引っ越し業者の費用に加えて、礼金や敷金、前家賃などの諸費用が掛かります。引越し関連で40万円の諸経費を見積もっておきましょう。教育ローンの返済と引っ越し費用で100万円を取り崩すことになりそうです。

ボーナスの収支も確認しておきましょう。現在年間100万円のボーナスがありますが、ボーナス貯蓄は年間30万円ですから、差額の70万円は何かに使っていることになります。転職先のボーナスが70万円に満たない場合で、この支出を止められない場合、転職後には貯蓄を取り崩すことになるでしょう。ボーナスの使い道や転職先候補のボーナス事情についても確認が必要です。

節税や投資よりも目先の現金を確保して

ご相談者さんが現在取り組んでいることとして、
◆預貯金を投資信託(つみたてNISAなど)に切り替える
◆企業DCのマッチングを満額で行う
というものがありました。少しでも節税したい、少しでもお金を増やしたいと思っての行動だと思いますが、現在のご相談者さんの状況を考えるとあまりお勧めできません。

まず、預貯金をつみたてNISAなどに切り替えているということですが、すでに金融資産の43%が投資に振り分けられています。いまから2年以内に教育ローンの返済や引っ越し費用として約100万円の支出があり、さらに2年後に収入が半減することを考えると、今はもう、積極的に投資をするタイミングではありません。投資には値動きがあるため、2年後に手持ち資産が大きく値下がりする可能性もあります。例えば、7万円のうち2万円はつみたてNISAを継続しつつも、あとの5万円やボーナス貯蓄は預貯金として手堅く貯えましょう。

また、企業型DCのマッチング拠出はすぐに止めましょう。マッチング拠出は、会社が拠出する掛け金に加えて、加入者が掛け金を上乗せして拠出するもの。企業型DCの非課税投資枠を利用できることや、掛け金が全額所得控除になるなどメリットの多い制度で、老後に向けた資産形成をしていきます。では、どこが問題なのかというと、この企業型DCのマッチング拠出では、自分が拠出している投資資金を60歳になるまで引き出せない点にあります。ご相談者さんは、2年後に転職して以降は、年収が当面大幅に減少する見込みですから、いま手元にある資金を老後まで引き出せないものにお金を投じる余裕はありません。マッチングへの新たな拠出を止めて、その分は貯蓄として残しておきましょう。

転職前は現金比率を高め、転職後は収入アップを目指そう

転職前にできることをまとめると、いまは投資による節税や運用効果に期待するのではなく、現金比率を高めることが重要です。いまの世の中、預金でお金を増やすことは難しいですが、元本保証で必要な時に出し入れできる現金を確保することで、困ったときにお金を使いやすくなります。転職前後ではこのお金が精神的な余裕につながります。

転職後のアドバイスとしては、転職により一時的に収入が半減するとしても、将来的には収入アップを狙っていくことがとても重要になります。収入が半減したまま据え置きになると、暮らしにまったく余裕がないばかりか、退職金にも期待できなくなります。現役時代の給与が少ないということは、老後に受け取る年金額も少なくなります。経験値や信頼を積み重ねて、収入アップの道を模索し続けましょう。夢に向かって頑張ってください。

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