どこで何をやるのかも秘密…海上自衛隊の潜水艦 女性隊員の厳しい訓練に密着 艦内の生活とは 

「漁船1隻、右100°5マル。走行方位角、右50°」

RCC

艦橋に上がり見張りをしているのは、海上自衛隊の桑原杏実海士長(22)。潜水艦の乗組員を目指して、訓練に臨んでいます。

RCC

「艦橋へ、潜航せよ」「潜航、潜航」
「艦長、1万ヤード内、近づく目標ありません。左艦尾からこの進路で潜入します」

RCC

張り詰めた空気の発令所に響く指令。海上自衛隊の中でも潜水艦の活動は、機密が多いことで知られていて、現在は22隻の潜水艦が任務に就いています。

RCC

潜水艦教育訓練隊 目加田克彦 司令
「日本おける潜水艦の役割は、隠密性というのが潜水艦の最大の武器であります。平時は情報収集・警戒監視といった行動を行い、抑止力として有事の際には対処能力として」

RCC

艦内はせまく、乗組員は数日にわたり過酷な勤務を強いられるため、乗艦できるのは適性検査などに合格し、厳しい訓練に耐えた自衛官だけです。

RCC

「せーの! もっと上や。上」

RCC

海上自衛隊呉基地にある潜水艦教育訓練隊です。日本で唯一、潜水艦の乗組員を養成する部隊です。

ことしは、全国から選抜された現役の自衛官20人が専門的な知識や技術を学ぶために入校しました。

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3期目となる女性隊員6人も含まれていて、その1人が桑原海士長です。愛知県で初めての女性潜水艦乗りを目指しています。

桑原海士長は、地元の高校を卒業した後、海外で活躍する自衛官にあこがれて海上自衛隊に入隊しました。高校在学中は、合唱部に所属する普通の高校生だったそうです。

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専門は、ソナーを使って海中に潜む潜水艦や障害物などを捜し出す水測員。海上の艦艇で培った知識を活かすために潜水艦勤務を希望したということです。

桑原杏実 海士長
「自分がもっと精神的にも仕事面でも成長できるのではないかと思って潜水艦を志望しました」

RCC

専門分野を学ぶだけでなく、潜水艦に勤務するにはハードな訓練も必要です。桑原海士長も同期とずぶ濡れになりながら訓練に取り組んでいました。

RCC

教官
「パワーがどうしてものないので、木栓が奥までなかなか行きつけなかったが、チームワークよく実施できたと思います。上手だったと思います」

桑原杏実 海士長
「毎回、実施するたびに緊張するが、教官方や仲間がいるので、勇気をふり絞って最後まで達成することができてよかったです」

3日に及ぶ総仕上げの乗艦実習訓練…。海上走行や潜航訓練などを見学します。

RCC

桑原海士長をはじめ訓練生たちは、航海や機関など、それぞれの専門分野に分かれて、ベテランの乗組員たちから1つひとつ説明を受けていました。

「この音だと、小型の船舶のパラパラみたいな漁船とか、小型の貨物船とか…」

RCC

桑原海士長は、実際にソナーを操作してとらえた海中の音に神経を集中させます。

桑原杏実 海士長
「センサーも聞こえない範囲があるので、それに入ると音が入らなくなる」

― どう、実際に聞いてみて?
「久しぶりにソナーの機械を使って音を聞いたので、久しぶりな感覚と、また部隊実習などでも勉強できると思うので、さらに磨きをかけたいなと思いました」

実習の合間の楽しみと言えば食事です。潜水艦の食事は、過酷な勤務だけに、豪華だといわれています。

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新型コロナの影響で黙食とはいえ、訓練生たちは実習の疲れを癒していました。

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女性隊員たちが一番気になるのは、居住区間です。

桑原杏実 海士長
「見た目からも圧迫感あって、せまい印象を受けますね。護衛艦とかのベッドとは、さらにせまくなっているので、気を付けて寝ないと、頭を打ってしまいそうなんですけど、個人的には問題がないかと思います」

RCC

潜水艦は、3年前まで居住条件などから女性自衛官の乗艦が認められていませんでした。

RCC

潜水艦教育訓練隊 目加田克彦 司令
「母性の保護・男女のプライバシーの確保といったところから女性の乗組員がいなかった」

しかし、政府の男女共同参画の方針を受け、防衛省は全ての職域で女性の起用を認めることにしました。

目加田克彦 司令
「人的基盤が重要であり、今後の少子化といったものが加味され、女性に対して潜水艦職域が開放されたと」

「艦長、浮上用意。浮上せよ。浮き上がる」

RCC

乗艦実習を終えた桑原海士長は、せまい潜水艦の中で人間関係について学んだといいます。

RCC

桑原杏実 海士長
「男女で仕事をするには心配りが一番大切だと思うので、今後、仕事をしていくにあたって、そのようなことを意識して仕事していけたらいいなと」

この日は、同期5人の女性隊員たちで食事に出かけました。修業式が終わると、各部隊に戻り、部隊実習が始まるため、これがみんなで食べる最後の外食です。私服でスマホを見たり、お酒を飲んだり…。この日だけは、潜水艦の話は出ませんでした。

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桑原杏実 海士長
「女性の自衛官が潜水艦乗りを希望し、入校したとき、その人たちの道を閉ざすことのないように、潜水艦の魅力を知ってもらえるように自分からも広報の活動をしていきたいと思っています」

先月、4か月間の訓練を終え、1人が志半ばで挫折したものの、無事、同期19人が修業式を迎えることができました。

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桑原杏実海士長は、訓練の成果が評価され、努力賞を受賞し、表彰されました。式では、潜水艦隊のトップ・俵千城海将が訓示しました。

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潜水艦隊司令官 俵千城海将
「この4か月間、習得した知識技能を確実なものにするよう全力を尽くしてもらいたい」

桑原杏実 海士長
「同期と協力して無事に修業できたことをとてうれしく思います。ご指導くださった教官の方々にも感謝しています。部隊実習を通じ、一人前の潜水艦乗りになれるようにがんばりたいと思います」

RCC

修業した自衛官たちは、これから呉と横須賀に分かれ、4か月の部隊実習を経て正式な潜水艦乗組員になります。

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