挑戦は続く

 頭の中で「俯瞰(ふかん)して自分を見ている感じ」だと、その“超人”は氷上のジャンプが決まった時の感覚を表現したことがある。成功した姿さえイメージできれば「ジャンプを絶対に外さない」と▲会見で「4回転半ジャンプ」のイメージを身ぶり手ぶりで語ったこともある。「体を2回転させながら(縄跳びの)4重跳びをする感じ」。凡人の素人には想像できないが、超人は「跳んでいる自分」の像を頭にくっきり描くのだろう▲その人、フィギュアスケートの羽生結弦選手(27)が競技会から引退し、プロで続けると表明した。冬季五輪で2連覇を果たし、10年以上も世界トップの座にいて、競技で「取るべきものは取れた」という▲思えば、4回転ジャンプを男子フィギュア界の「当たり前」にしたのはこの人だった。転倒しながらも、北京五輪で「4回転半に挑んだ」ことを初めて記録に残したのもこの人だった。この先も、ほかの選手の挑戦が後に続くのだろう▲大震災に遭い、けがに苦しんだ経験も、自分を磨く砥石(といし)にした。逆境を超え、地平を切り開き、才華を輝かせてなお、今後も「理想を追い求めながら頑張る」と、きのうの会見で語った▲自分を磨く営みは道半ばらしい。「これからの自分」の像もまた、頭の中でくっきり描かれているだろうか。(徹)

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