HTB売却へ

 面会の予約もなく、東京の本社に3度目の訪問があった。やってきたのは佐世保市の朝長則男市長。“アポなし”の直談判に面食らったのは、旅行大手エイチ・アイ・エス(HIS)の、当時の澤田秀雄会長。市長は頭を下げた。「ハウステンボスを助けてください」▲経営に行き詰まった大型リゾート施設を引き受けるのかどうか。2010年2月、それまで断っていた澤田氏は「3年やって駄目なら手を引きます」と“期限付き”で応じた▲その頃、筆者は東京駐在で、記者コラムに〈綱渡りの交渉は、取材していて息が詰まるよう〉と書いた。その後わずかで、澤田氏の手により崖っぷちからV字回復を果たす▲〈オンリーワンかナンバーワンのイベントしかやらない〉と、澤田氏への聞き書き本「変な経営論」(講談社現代新書)にある。巨大なバラ園。九州一の花火大会。「世界一」と銘打つイルミネーション。〈夏も冬も稼ぐ二毛作〉が実現した▲コロナ禍はHISの経営を直撃し、やむなくハウステンボスを売却する方向という。株主が代われば経営方針も変わるが、どうなるか▲奇跡と言っても大げさではない立て直しを果たした人は、観光県の恩人だろう。「3年で駄目なら…」。瀬戸際の談判で始まった12年に区切りをつけて、転換期にまた入る。(徹)


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