病気見落とし怖い、素肌あり得ない… 「健診脱衣」女子生徒の問題提起に反響

治療用の装具を手に側彎症について説明する中村医師=横浜市南区の県立こども医療センター

 学校健診で脱衣って必要ですか? 神奈川新聞の「追う! マイ・カナガワ」取材班が6月、横浜市内の神奈川県立高校に通う女子生徒が交流サイト(SNS)で発信した健康診断の実情を取り上げたところ、保護者や元学校関係者、医師らから多くの反響が寄せられた。「うちの子の学校も同じことがあった」「着衣で病気が見落とされるのは怖い」。集まった賛否の声を紹介する。

◆保護者会でどよめき

 「他の学校でも同じ事が起こっていたなんて…」。横須賀市のパート女性(48)は記事を読み、息子が通っていた市内の県立高校で数年前に巻き起こった議論と重ね合わせた。

 保護者会である女子生徒の親が「健診で上着や下着を脱がされるのはおかしい」と訴えた。保護者らは健診の状況を初めて知った様子で、どよめきが上がったという。その後学校が地元医師会と話し合い、翌年から脱衣を求められることはなくなった。

 「素肌をさらすなんてあり得ない」。60代女性が通った県内の私立女子高校では50年前から、脱衣を求めない配慮がなされていたそうだ。一方で「昔はもっとひどかった」と明かすのは横浜市内の歯科衛生士女性(54)。約30年前に勤め先の県内大学で行った健診で男性医師が「女子大の担当は人気で奪い合いになる」と話していたことを思い出し、「強い嫌悪感を抱いた」という。

 川崎市の会社員女性(43)は「脱衣で見つかる病気が着衣で見落とされてしまわないか」と着衣での不安を吐露した。厚木市内の病院に勤める男性医師は「健診は着衣のままでもできる」とし、前回の記事で脱衣を求めていた学校医が「聴診器を数秒当てただけだった」という生徒の話に触れ、「表面をなでるような診察で、脱衣を強要することはあってはならない」と断じた。

◆側彎症発見に必要も「生徒の意思尊重を」

 全国の学校健診の現場では近年、「側彎(そくわん)症」の症状を早期発見することにも力が入れられている。進行すると胸郭の変形による息苦しさや腰、背中の痛みが悪化するこの病を、国や県教育委員会は脱衣を求める理由の一つに挙げる。県立こども医療センター(横浜市南区)の中村直行・整形外科部長(53)は「上半身裸か下着だけ着用した状態が望ましいが、生徒に説明を尽くすことが大前提」と話す。

 側彎症の患者は全人口の2%程度で、学校では2クラスに1人程度の割合で発症するという。同センターで治療する患者は年間約300人で多くが女性だ。早期発見すれば装具治療によって進行を抑えられる可能性がある。装具は変形した背骨に負荷をかけるため、変形が進行すると痛みや息苦しさが増すという。

 国は2016年から、学校健診での側彎症チェックの強化に着手。それに合わせて全国で症例数も増加しており、同センターにも即座に手術が必要な患者が訪れたこともある。

 チェックするのは体のラインで、左右差を確認するには「上半身裸が望ましい」と中村部長。取材に合わせ、小児整形外科ら医師15人に確認したところ、「専門医でさえ発見は難しい。側彎症は見つけにいかないと見つからない」との“結論”に至ったという。

 さらに健診を担当する学校医の多くが小児科の開業医のため、中村部長は「彼らに整形外科疾患の知識を求めることは酷。着衣のままでは、発見が一層困難になり、健診が形骸化しかねない」と危惧する。

 その上で中村部長は、小児医療の世界では患者である子どもの意思を尊重する「インフォームドアセント」の考えが定着しているとし、「学校健診も脱衣を求める理由の説明が必要。生徒の同意が得られなければ、自分で選んだ病院で検査できる選択肢を示すべき」と提案した。

◆取材班から

 取材を進めると、東京や千葉の一部地域では、専用機材を用いた画像診断で側彎症をチェックする体制整備が進んでいることも分かった。その検査も脱衣を要するが、技術が進歩して着衣のままの検査が実現することを願う。記者は26日午前8時10分ごろから、FMヨコハマ「ちょうどいいラジオ」に出演し、健康診断の問題について語る予定です。

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