金融庁は投資信託の何を問題視しているのか

金融庁が毎年作成・公開している「資産運用業高度化プログレスレポート」の2022年版がリリースされました。これまで「ESG投信」、「投資信託のプロダクトガバナンス」について取り上げてきましたが、それ以外にも投資信託に関連するいくつかの論点があるので、それを紹介していきます。


一物多価問題の解消には時間がかかる

まず「一物多価」に関する論点です。

投資信託の「一物多価」問題とは、たとえば同一のベンチマークに連動するインデックスファンドであるにも関わらず、信託報酬率にバラツキがみられるケースを、同レポートでは指しています。

特にこの数年、インデックスファンドを中心にしてコスト競争が激しくなり、日経225平均株価やTOPIXなど国内株式インデックスをベンチマークとするインデックスファンドの信託報酬率が、年0.2~0.6%程度まで下がってきました。

しかし、かつてのインデックスファンドの信託報酬率は年1.0~1.6%前後のものが多く、なかには今も償還されることなく、運用が継続されているファンドが結構残っています。

そのため、同一ベンチマークへの連動を目指すインデックスファンドであるにも関わらず、昔設定されたものと、直近に設定されたものとでは信託報酬率に大きな差があり、それが一物多価問題として取り上げられるようになったのです。

これについては、信託報酬率の高い方に寄せるわけにはいかないので、昔設定されたインデックスファンドの信託報酬率を引き下げる方向で話を進めるしかないのですが、ここで問題になるのが、販売金融機関の存在です。

販売金融機関からすれば、かつての年1.0~1.6%という信託報酬率は既得権益になっています。その料率を引き下げることは、販売金融機関にとっては何の苦労もせずに入ってくる収益を減らすことにつながります。それだけに販売金融機関の抵抗が強く、この問題の解消には、時間がかかりそうです。

償還期限の短いファンドは長期投資に不向き

次に「償還期限設定型投信」の増加という問題を、同レポートでは取り上げています。

償還期限設定型投信とは、商品組成時に信託期限を5年、10年と設定している投資信託のことです。基本的に投資信託という金融商品は、長期的な資産形成を行うためのものですから、償還期限を「なし」にするのが当然なのですが、日本の投資信託は、事前に償還期限を設定するタイプのファンドが少なくありません。それも同レポートによると、償還期限を5年と、かなり短期に設定したものが多く見られると指摘しています。

これについて一部の資産運用会社からは、「繰上償還の判断は、投資家の利害関係の判断や、追加コスト負担がかかる販売会社との調整が困難なため、その代わりに、あらかじめ比較的短期の償還期限を設定して、場合によっては定時償還にて対応できるようにしている。ただし、本来は長期での運用を望んでおり、償還期限到来時には期限を延長して対応するようにしている」という意見があったと、同レポートに記載されていますが、果たしてこれを「是」としてしまっても良いのでしょうか。

確かに、償還期限を短めに設定し、償還期限を延長することで、より長い期間運用したいというニーズにも対応するのは、何となくもっともらしい言い分に聞こえますが、そもそも償還期限を短めに設定する時点で不純です。

特に販売金融機関側には、購入手数料を稼ぐために、できるだけ短い保有期間で新しいファンドに乗り換えて欲しい、というインセンティブが常に働いています。それは売買仲介ビジネスである以上、仕方のないことですが、この類のインセンティブがある限り、償還期限を5年に設定したファンドを投資家に販売するに際して、10年、20年と長期間保有してもらうようにアドバイスするような販売金融機関がいるものでしょうか。これは筆者の推測に過ぎませんが、恐らくそのような販売金融機関はないと思います。

これは同レポートでも指摘しているように、「必要な償還対応は、繰上償還プロセスの整備等によって行われる」べきでしょう。

人気の予想分配金提示型は誰にでも良いものではない

ここ数年、人気の高まっている投資信託に「予想分配金提示型」のファンドがあります。多くは毎月分配型で、毎計算期末の前営業日の基準価額に応じた分配を目指すものです。

たとえばあるファンドによると、前営業日の基準価額が次のようになると、分配金額は以下のようになります。

前営業日の基準価額:1万1000円未満・・・・・・基準価額の水準を勘案して決定
前営業日の基準価額:1万1000円以上1万2000円未満・・・・・・200円
前営業日の基準価額:1万2000円以上1万3000円未満・・・・・・300円
前営業日の基準価額:1万3000円以上1万4000円未満・・・・・・400円
前営業日の基準価額:1万4000円以上・・・・・・500円

同レポートでは、「運用資産取り崩しニーズのある高齢者層に、予想分配金提示型の毎月分配型が販売されること自体は否定されるものではない。ただし、税金や複利効果の面でデメリットがあるため、若年層などの資産形成層に向く商品ではない」と指摘しています。

毎月分配金が支払われるということは、その都度、分配金に税金が掛かるのと同時に、再投資効果が期待できなくなるので、長期の資産形成には不向きと考えられます。その意味では、販売金融機関がしっかりと販売する層のターゲティングができているかどうかが問われます。

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