繰り上げ返済は急げばいいわけでもない?収入減で教育費と住宅ローン返済が不安な44歳会社員

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。
今回の相談者は、2人の子どもと同い年のパートの妻と暮らす44歳会社員の男性。転職により収入が4分の3ほどに減ってしまう見込みという相談者。二人の教育費と住宅ローンの繰り上げ返済の計画についてアドバイスがほしいと言いますが…。FPの渡邊裕介氏がお答えします。


転職により収入が25%程下がる見込みです。以下2点が悩みです。

(1)こども2人の教育費として、あと2,000万は必要と考えているが、不足か十分かわからない。

(2)住宅ローンについて。控除が終わる10年で繰り上げ返済していったほうが良いか。住宅ローンは、残債2,100万円。借入額は2,500万円、返済期間35年(残り29年)、返済金利は10年間0.95%、11年目以降は1.55%です。

アドバイスよろしくお願いいたします。

【相談者プロフィール】

・男性、44歳、会社員

・家族:妻44歳(パート)、子ども2人(8歳、4歳)

・住居の形態:持ち家(戸建て、東海地方)

・毎月の世帯の手取り金額:36万5,000円(夫26万5,000円、妻10万円)

・年間の世帯の手取りボーナス額:100万円

・毎月の世帯の支出の目安:24万円

【毎月の支出の内訳】

・住居費:6万9,900円

・食費:6万円

・水道光熱費:1万2,000円

・教育費:3万7,000円

・保険料:8,000円

・通信費:1万円

・車両費:1万5,000円

・お小遣い:1万5,000円

・その他:2万円

【資産状況】

・毎月の貯蓄額:3万円

・ボーナスからの年間貯蓄額:40万円

・現在の貯金総額(投資分は含まない):3,000万円

・現在の投資総額:2,000万円

・現在の負債総額:2,100万円(住宅ローン残債)

渡邊:こんにちは、ファイナンシャルプランナーの渡邊裕介です。今回は、教育費準備および住宅ローンの繰り上げ返済のご相談です。今後、転職により収入が下がることが予想されるなかで、どのように教育費や住宅ローンの繰り上げ返済について考えていけば良いのでしょうか。一つずつ整理しながらみていきましょう。

2人の教育費は2000万円で足りる?

まず子どもの教育費について、2000万円で十分か不足するのか分からないとのことですが、当然どういった教育方針で行くかについても変わってきます。現在は小学生と未就学児です。中学校以降、公立なのか私立なのかによって掛かってくる教育費も大きく変わります。まずは、現段階でどのような教育を準備してあげたいかについて、ご夫婦で話し合いましょう。

表は、小学校から大学までの公立・私立の一般的な教育費です。もし、高校まで公立で大学が私立文系と想定すると、約1,000万円となりご相談者のご予定通りとなります。もし、高校から私立へ行くことや、大学が理系になることも考えられるとしたら、約1,300万円となります。

支援金を受けられる可能性も

なお、これらはあくまで一般的なデータとなります。高校の授業料の場合、「高等学校等就学支援金制度」というものがあります。これは、国公私立問わず、高等学校等に通う所得等要件を満たす世帯(年収約910万円未満の世帯)の生徒に対して、授業料に充てるため、国から高等学校等就学支援金が支給される制度です。転職により収入が下がることを考慮すると、世帯年収要件も当てはまる可能性がありますので確認しておきましょう。

重要なのは、一般的なデータをもとにご自身の家庭に置き換えて、どれくらいの教育費が必要かどうかを試算することです。

繰り上げ返済のメリットは? 繰り上げ返済の種類から確認

では、次に住宅ローンの繰り上げ返済について考えていきましょう。

まず住宅ローン繰り上げ返済のメリットは何でしょうか。繰り上げ返済には、「期間短縮型」と「返済額軽減型」の2種類があります。

(1)期間短縮型
「期間短縮型」のメリットは、定年後までローンがある場合など、繰り上げ返済をすることで定年までに住宅ローンを完済することができ、定年後の負担を軽減できます。「返済額軽減型」と比べると、利息軽減効果が大きいのが特徴です。

(2)返済額軽減型
「返済額軽減型」のメリットは、月々の家計支出が抑えられることです。収入の減少や、子どもの成長に伴う生活費の上昇、子どもの教育費など支出が多い時期などは、毎月の返済額を軽減させることで、月々の家計を安定させることができます。

いずれにしても、繰り上げ返済をすることで利息を軽減させ、トータルで支払う返済額を減らすのが目的になります。

繰り上げ返済のデメリットも考える

一方で、繰り上げ返済のデメリットもあります。デメリットは大きく3つです。

(1)住宅ローン減税
住宅ローン減税は、対象期間のおける年末残高の0.7%(ご相談者は旧制度により1%)が所得税・住民税から控除される制度です。繰り上げ返済することで、年末残高も減少するので、利息軽減効果はありますが、ローン控除出来る金額も減少します。ご自身の所得税額と照らし合わせて、利息軽減効果とローン控除どちらが効果が高いかを確認する必要があります。ご相談者のように、ローン減税期間が終了してから繰り上げ返済を考える場合は考慮しなくても大丈夫です。

(2)手元資金がなくなる
繰り上げ返済をするということは、その分手元からお金がなくなるということです。住宅ローンの返済以外にも、教育費や自動車の購入など資金が必要なタイミングがあります。思わぬ出費があった際に手元にない、ということがないように計画を立てる必要があります。また、一般的に他のローンと比べて住宅ローンは金利が低く優遇されているため、繰り上げ返済にこだわることで、手元資金がなくなり、他でローンを組むのであれば、住宅ローンにしておいた方が効果的です。

(3)団体信用生命保険の効果
住宅ローンを組むと、基本的には団体信用生命保険に加入します。これは、死亡や高度障害の保障をベースに、最近はがんなどの特約が付加されていたり、保障が充実している団信もあります。

仮に3,000万円のローンがある時に万が一お亡くなりになった場合は、3,000万円のローンは完済され、その後のローン負担は無くなります。もし、事前に1,000万円の繰り上げ返済をしたとすると、残債は2,000万円になりローン負担は軽減されますが、その状態でもしお亡くなりになった場合、同様に2,000万円のローンは完済されますが、手元にあった1,000万円も繰り上げ返済に支払ってしまった状態となってしまいます。保障としての機能は弱くなってしまうということです。

利息軽減効果とのバランスを考えて

このように、ローン控除の期間が終わったからといって、積極的に繰り上げ返済をすれば良い訳ではなく、ご自身のライフプランや保障としての観点から繰り上げ返済計画を立てる必要があります。

ご相談者の場合、仮にローン減税が終了するあと4年経過後に年間100万円ずつ繰り上げ返済をしていくと、繰り上げ返済にトータル1,100万円費やし58歳でローン完済できる試算となります。その際の利息軽減効果は約236万円です。一方、もし一度に1,100万円を一括で繰り上げ返済した場合は、57歳でローン完済となり、利息軽減効果は328万円です。

すなわち、利息軽減効果だけでみれば、約90万円の差があるので早めに一度にまとまった金額を繰り上げ返済する効果はありますが、その分手元から大きな資金がなくなり、団信の効果も減少します。

ご相談者は貯蓄も運用を含め潤沢に準備できています。収入が減少したとしても、病気等のアクシデントが無ければ、大きな問題は無いように見受けられます。返済の仕方に正解はないので、ぜひご自身のライフプランや考え方に合った返済を目指していただければと思います。

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