赤テントに懸ける(5)氏原韻さん 出演者への拍手やりがい

ピンスポットライトを舞台に当てる氏原さん。出演者に送られる拍手が自分のやりがいとなっている

 木下サーカスで舞台を盛り上げるのは出演者だけではない。音響や照明を担当する裏方たちが確かな仕事をしてこそ、技は引き立ち、観客を魅了する。

 「照明も音響も全くの未経験だった」という氏原韻(ひびき)さん(22)は4月に入団し、観客席の後方から舞台に当てる「ピンスポットライト」を主に担当。4台あるライトのうち1台を任されている。

 ピンスポットライトはその名の通り、出演者らをピンポイントで照らし出す。演目ごとに出演者の動きを全て頭に入れておき、赤、青など4種類のライトを正確なタイミングでその場所に当てなければならない。

 「失敗すれば、演技を台無しにする。責任は大きい」と表情を引き締めつつも「これほどやりがいを感じる仕事はない」とも語る。

 幼い頃から自分を主張するのが苦手だった。地元の愛知県豊川市の高校を卒業後、親の勧めで自宅から通える女子大に進学。将来やりたいことが見つからず、4年の夏になっても就職活動をしていなかった。

 そんな時、豊川市に木下サーカスがやって来た。大けがをしかねないぎりぎりの演技を次々と繰り出す団員たち。空中ブランコでは落下する場面もあった。一回一回の演技に懸ける思いが伝わり、心に火が付いた。

 「私も感動を届ける仕事がしたい」

 前に出るのが苦手な自分にもできる職種はないか。木下サーカスのホームページで音響・照明係の募集を見つけ今年1月、試験を受けて採用が決まった。

 団員約110人のうち音響・照明係は現在6人で専門学校の出身者も多い。「出演者の方からライトに入ってきてくれるものと勘違いするくらい自分は何も知らなかった」と笑う氏原さん。先輩から教わりつつ、日中の公演後に誰もいない舞台にライトを当てるなどして覚えていった。

 照明が演技にピタリとはまり、客席から大きな拍手が送られた時に一番やりがいを感じる。自分に向けられた喝采でなくても、感動の舞台を演出できたことが何よりの喜びだ。

 今は音響を勉強中。演技に合わせ音楽をタイミングよく流せるよう日々練習している。「何も夢中になれるものがなかった自分をサーカスが変えてくれた。舞台の感動をいかに高めるか。裏方として道を究めていきたい」

=Part1おわり

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