試練のESG投資。日経平均気候変動1.5℃目標指数で探る今後の相場展開

2カ月ほど前に日経平均気候変動1.5℃目標指数という新しい指数が開発されました。ベースは日経平均ですが、温暖化ガス排出量に応じて、指数に占める銘柄の構成比率を調整しています。


日経平均気候変動1.5℃目標指数とそのパフォーマンス

この指数全体の排出量は、日経平均に比べて半分になるように設計されています。作成方法は下記の具合です。

日経平均を構成する225銘柄のうち、まず

1. 化石燃料関連の売上高が一定水準(石炭1%以上、石油10%以上、ガス、発電事業50%以上)を超える銘柄や、ESGの観点から武器やたばこ、社会規範に抵触する銘柄を除く。いわゆるダイベストメントの発想です。これによってこの指数は現在、日経平均より20銘柄余りも少ない204銘柄で構成されています。次に
2. 採用する銘柄のうち、温暖化ガス排出量が少ない銘柄は構成比率を高くする一方、排出量が多い銘柄は構成比率が低くなるように調整します。

この2つの方法により、新指数の全体の温暖化ガス排出量が日経平均に比べて半分になるようにするのです。

パフォーマンスを比べたものがこちらです。青が気候変動指数でオレンジが日経平均。ほとんど同じで見分けがつきませんが、実はそこがミソなのです。

リスク・リターン・プロファイルが日経平均とほとんど同じで温暖化ガス排出量は半分。投資家にとっては、よく知った指数に投資しているのと同じだから先物でヘッジするなどリスク管理はしやすく、リスク・リターンの予測なども立てやすいのです。それでいて、温暖化ガス排出の抑制に貢献できる。こんなに使い勝手のいいESG投資の手法はないと思います。今後、この指数に連動するETFなど開発されれば、一気に広がる可能性を秘めています。

ESGに吹く逆風

リスク・リターン・プロファイルが日経平均とほとんど同じと述べましたが、細かく見れば、当然違いはあります。この二つの指数の差分(気候変動指数マイナス日経平均)をとると、下記のグラフのようになります。

過去に遡って算出した指数値と比べると、2019年初時点では気候変動指数が日経平均より700円くらい下回っていたのが、右肩上がりで差が縮まり、21年の後半にかけては逆に日経平均を上回っていました。

ところが、今年に入って、差分がマイナス方向に広がりました。つまり気候変動指数が日経平均に負けているのです。資源高を背景に、石炭や石油など化石燃料に関連する企業の株価が上昇に転じていたところに、2月にロシアによるウクライナ侵攻が始まり、資源関連株の値上がりが加速したことが背景です。ロシアのウクライナ侵攻でエネルギー調達に支障が出ている国があり、市場では「ESGどころではない」とか「脱炭素目標は棚上げすべきではないか」といった声もあるくらいです。まさにESGにとって逆風が吹いています。

変化の兆し。欧州では1年前の水準まで回復

こうした状況は海外でも同じですが、実は変化の兆しが見られます。日米欧、3つ並べると差分だと見にくいので、気候変動指数と親指数の比率をとったのが下のグラフ。気候変動指数÷親指数×100で、日経平均株価(日経平均)をTOPIX(東証株価指数)で割ったNT倍率のように考えれば分かりやすいです。このグラフが上昇すれば気候変動指数が強く、下落はその反対です。

今年に入って気候変動指数が弱くなっているのは同じですが、足元では底打ち反転の兆しが明確です。

特に強いのは欧州で、すでに1年前の水準まで回復しています。もともと欧州はESGの意識が強く、そこにきて今年の異常気象です。ロンドンでも40度を記録するなど、7月の平均気温が平年の倍近いといいます。そのため、温暖化の意識が再度強まったのでは?というのは、勝手な推測ですが、明確なエビデンスがあるのは、やはり原油価格のピークアウトでしょう。

原油のピークアウトと、この指数のボトムアウト~反転上昇がきれいに一致しています。つまり、原油価格の下落で化石燃料に関連する企業の株価が下がった。もうひとつ、インフレ懸念の落ち着きを受けて金利もピークをつけた。

そこで売られていたグロース系の戻りにつながった。実は気候変動指数でオーバーウェイトされている銘柄は半導体株やグロース系が多いのです。

2022年後半の相場展開

筆者の年後半のシナリオは、前半の逆の展開になると予想しています。

FEDの利上げペースが加速していった前半もまさに7月のFOMCでピークを迎え、9月からは利上げ幅が縮小する。長期金利ももう上がらないでしょう。そういう環境ではグロース株の戻りが期待できます。

そこにもうひとつの要因が加わる。それがESG意識の復活です。一時の資源高で後退したように見えましたが、ESGの流れは不変でしょう。気温上昇抑制のセンチメントが再び高まり、気候変動1.5℃目標指数への投資が増える。それが半導体株やグロース株の追い風になるでしょう。

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