志が問われる夏

 幕末の志士坂本龍馬は27歳の時、姉乙女に手紙をしたため「日本をいま一度洗濯してやろうと神に願っています」と大望をつづった▲それから非業の死を遂げるまでの4年間、龍馬の人生は彗星(すいせい)のような光芒(こうぼう)を放つ。長崎を足場に京都、長州、薩摩を飛び回り、薩長同盟を仲介すれば、大政奉還の実現にも身を砕き、264年続いた江戸幕府を倒す原動力になった▲なぜ一介の脱藩浪人に過ぎない龍馬が歴史を変えられたのか。それは「日本を洗濯する」という高い志が、たくさんの人を引きつけ、結び付け、時流のうねりをつくったからだろう▲核兵器廃絶もそうではないか。核で脅し合い、おびえ続ける世界を変えてみせる、という強固な意志を唯一の戦争被爆国が明確に示してこそ、世界が共鳴して現状を打破する流れが生まれるはずだ▲岸田文雄首相は今のところ、核兵器禁止条約を「核保有国が参加しておらず現実的でない」と座視している。確かに世の中は常に理想と現実のせめぎ合いだ。だが現実を強調するばかりでは、核廃絶を願う諸国民に「志なき現状追認」と見られても仕方あるまい▲これから7年ぶりの核拡散防止条約(NPT)再検討会議、広島・長崎の原爆の日の式典が続く。首相の言葉の中に龍馬のような志はあるか。耳を澄ませたい。(潤)

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