3年ぶりのJ1制覇へ!多彩な「アタッキングフットボール」で突き進む横浜F・マリノス

今季最大のビッグマッチを制したのは、攻撃力で勝るホームチームだった。

7月30日に日産スタジアムで行われた横浜F・マリノス(以下横浜FM)vs鹿島アントラーズの一戦は、攻守で上回った横浜FMが強さを見せつけた。

時計の針が進むにつれ徐々にペースを握ったトリコロールは、ほぼ完璧に近い試合運びで大一番を乗り切った。シュート数は17対2と圧倒的で、前半のうちに先制し、後半早々に追加点を奪うのも極めて理想的な展開だった。

決して良好なピッチコンディションとは言えず、主力の多くが直前の日本代表戦へ招集される難しい状況のなか、しっかりと勝利をつかんだのは称賛に値するだろう。

今回の当コラムでは、天王山をモノにして、3年ぶりのリーグ制覇へ大きく前進した横浜FMにフォーカス。好調の要因である特徴的な戦術とチームを支えるキーマンにスポットライトを当てていきたい。

今季の基本システム

まずは、直近リーグ戦5試合での基本システムおよびメンバーを見ていこう。

守護神はセービングだけではなく足元の技術にも優れた高丘陽平。

4バックは右から巧みな攻撃参加が光る松原健、守備の要である畠中槙之輔、Jで長らくプレーするエドゥアルド、正確な左足が魅力の永戸勝也というラインナップを基本としつつ、両サイドに対応する小池龍太、出場機会増加中の角田涼太朗らもおり選手層は厚い。

ダブルボランチはマルチロールの岩田智輝を軸に渡辺皓太、大きく成長している藤田譲瑠チマ&山根陸らが熾烈なポジション争いを展開中で、トップ下は得点源のひとりとして活躍が目覚ましい西村拓真と技巧派のマルコス・ジュニオールというタイプが異なる両名の争い。

ウイングは右がクロッサーの水沼宏太、左は突破力に優れるエウベルがファーストチョイスで、推進力のあるドリブルが売りの仲川輝人、怪我からの復帰が待たれる宮市亮も存在感を示すセクション。

CFは爆発力のあるレオ・セアラが不動の存在で、強靭なフィジカルを誇るアンデルソン・ロペスがバックアップする。

多彩な攻撃が首位を走る原動力に

23節を終えて2位・鹿島との勝ち点差を8とし、首位を快走する横浜FM。得点はリーグトップの50を数え、得失点差は断トツの25を記録するなど、圧倒的な数字でリーグ優勝へと突き進む。その原動力となっているのが、 “多彩な攻撃パターン”だ。

基本戦術は最終ラインからのビルドアップをベースとしたポゼッションで、淀みないパス交換から前線へボールを供給し、複数人が互いにサポートしながら、コンビネーションで崩していく。

ここで重要となるのが、サイドバックの動きだ。ウイングがタッチライン際に位置取り幅をもたらす場合は、ボランチ付近でビルドアップに参加またはインナーラップして相手DFを引きつける。

一方、ウイングが中央に切り込みゴール前へ侵入する場合は、後方からウイングの外側を追い越して攻撃に厚みを生み出す。左右どちらかではなく、両サイドでこの動きを実現できており、相手に的を絞らせない効果的な攻撃が可能となっている。

そして、トリコロールの強みはポゼッションからの崩しだけではない。前線は走力に自信があるアタッカーが多く、スピーディーなカウンターはショート、ロング問わず破壊力抜群だ。

また、サインプレーを織り交ぜたスローインなどバリエーション豊かな攻撃で脅威を与え続けるのが特長で、「やっぱりボールを動かせますし、どんどん湧き出てくるような攻撃を90分通してやられていたイメージもあります」(鹿島/土居聖真)という対戦相手のコメントが、その凄さを物語る。

チームを支えるキーマンは?

多彩な攻撃の中で輝くのが、右足から放たれるピンポイントクロスでチャンスメイクする水沼宏太だ。

豊富な運動量でもチームに貢献するベテランは、開幕から好調をキープ。ここまでリーグ戦20試合で5ゴール6アシストをマークしており、先日開催されたEAFF E-1サッカー選手権(以下E-1選手権)の日本代表に選出されるなど、充実のシーズンを過ごしている。得意とするクロスは速さや球質を使い分けており、名人芸と呼ぶにふさわしい。

水沼とともに攻撃を牽引する西村拓真は、トップ下で印象的な働きを披露している。スタートポジションである中央に留まらず、左右に動いて起点となり、自らも貪欲にゴールを狙うスタイルがチーム戦術と合致し、リーグ戦8得点はチーム2位の数字。

攻撃面のみならず守備時のプレッシングもストロングポイントで、1試合の走行距離はリーグでもトップクラス。特に第20節・サンフレッチェ広島戦で記録した14.12kmという数値は今季最長だ。

守備陣に目を向けると、ボランチとセンターバックを兼任する岩田智輝がカギを握る。攻守のバランス感覚に優れ、的確なつなぎで潤滑油となれる背番号24は、いまやリーグ屈指の守備職人へと成長した。

ケヴィン・マスカット監督の信頼は非常に厚く、フィールドプレーヤー最長となる出場時間(1,725分)を誇る。攻撃面での貢献も見逃せないポイントで、第23節・鹿島戦では先制点の起点となり、見事な右足ミドルで貴重な追加点を奪った。

A代表でも通用するタレントであり、E-1選手権に引き続き招集されても驚きはない。

トリコロールに課されたミッション

鹿島との天王山を制し、3年ぶりのリーグ制覇へ大きく前進した横浜FMが、優勝候補の筆頭であるのは間違いない。

スタメンを固定せず、巧みなターンオーバーで充実の戦力を活かしながら競争力を高めるマスカット監督の存在は大きく、体力を消耗する夏場の戦いにおいても、ダメージを最小限に抑えながら戦い抜けそうだ。

リーグ優勝を引き寄せる意味で重要な意味合いを持つのが、次節の川崎フロンターレ戦だ。緻密なポゼッションスタイルでリーグ2連覇中の川崎は、近年のJ1を引っ張ってきたライバル。優勝争いの側面からも、“神奈川ダービー”の側面からも負けられない試合となる。

しかし、川崎はトップチーム関係者複数名が新型コロナの陽性判定を受けており、直近の第23節・浦和レッズ戦はベンチ入りメンバー5名(うちGKが3名)という大変厳しい状況で戦った。

次節が万全な状態で開催されるか見通しが難しいが、攻撃の軸である家長昭博は封じなければならない敵方のキーマン。横浜FMはサイドバックが高い位置を取るのが特徴のため、家長と対面することが予想される永戸は、いつも以上に守備に気を遣いながらのプレーとなりそうだ。

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イレギュラーな状況での対戦が予想される“神奈川ダービー”で勝ち点をゲットし、2試合消化が少ない川崎との差を少しでも広げる。それがトリコロールに課されたミッションである。

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