夜も緊急電話、眠れず出勤… 長崎県央保健所の現状 コロナ全数把握 負担重く

夕方の新型コロナ対応の打ち合わせで藤田所長(手前左)の話に耳を傾ける職員=3日、諫早市栄田町の県央保健所

 長崎県内で最多感染者数を連日更新している新型コロナウイルス。対策の最前線に立つ保健所は職員総動員で対応に追われ、陽性者の全数把握が重くのしかかる。現在流行中のオミクロン株は重症化リスクが低く「もはや特殊な疾患ではない」として、現場からは対策の早期見直しを求める声も上がる。

 毎夕の打ち合わせ

 3日午後5時半、諫早、大村両市と東彼3町を管轄する県央保健所。1階執務スペースの最奥部にある電子黒板の前に職員が集まっていた。毎夕の新型コロナ対応の打ち合わせだ。司会を務める男性職員が黒板に表示された数字を発表した。
 「きょうの発生届は652件でした」。県内では7月に入り感染が急拡大し、20日には千人、26日には2千人を突破(いずれも公表日ベース)。県央保健所でも医療機関からの発生届が増加し、連日数百件に上っている。
 黒板そばのテーブルには、感染者情報の入力システム「HER-SYS(ハーシス)」からプリントアウトされた発生届が積まれていた。職員は重症化リスクを3段階(重い方からA、B、C)に振り分け、発生届に書き込み、情報の記入漏れや確認事項があれば入力元の医療機関に問い合わせる。その後、療養状況などをハーシスに入力。こうした作業を連日続けている。福田邦子地域保健課長は「発生届がすべての対応の基礎になる。正確に押さえなければならない」と話す。
 現在、県立の全8保健所が事業継続計画(BCP)を発動中。新型コロナ関連業務を優先し、他の業務は制限。県央保健所も藤田利枝所長以下全職員65人で対応し、「一部の職員に負担がかからないよう」(藤田所長)、ハーシス確認、健康観察、受診・療養調整、検体搬送、相談対応、事務処理などさまざまな業務を手分けしている。

 通常医療に浸透を

 夜間に医療機関が入力する発生届もあり、毎朝3人の職員が始業1時間前に出勤し午前8時から処理。さらに5人の保健師が毎晩交代で緊急用の携帯電話を持ち帰り、具合が悪い療養者からの相談や、救急搬送要請を受けた消防からの連絡を受けている。管内の自宅療養者は右肩上がりで増え、8月3日時点で約3500人。夜間の問い合わせも多い。最近も午後8時から翌朝7時半までに10件の電話対応をした職員がおり、ほとんど眠れないまま出勤せざるを得なかった。
 こうした状況を招いているのは、新型コロナが感染症法で最も幅広く厳しい措置が取れる「新型インフルエンザ等感染症」に分類され、陽性者を全数把握しなければならないからだ。オミクロン株は重症化リスクが低く、政府は対策を見直す検討に入っている。
 藤田所長は「もともと感染拡大防止のため全数を把握し、強制力をもって行動制限や入院勧告をしていた。今は全数把握はしても行動調査をしていない。全数把握の意味をもう一度考え直さなければならない」と指摘。「医師から、もう一般医療で対応して良いのではないかとの声が多く聞かれ、私たちも地域の通常医療に浸透させるよう取り組んでいる。政府がその方向で頑張るよう求めるのであれば、それは意義のあることだと思う」と話している。


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