「ラッシュ」終わる

 昔は新聞記事の「お決まりの枕ことば」に口うるさい先輩がいた。花火大会という言葉の上には「長崎の夏を彩る」、秋祭りの上には「秋を彩る」、イルミネーションとくれば「冬を彩る」…▲つい、そう書いてしまうと「まったく、何でも彩るんだな」とブツブツ言われた。その後は教えをしっかり受け止めて、多彩で巧みな表現を会得した…かといえば、まるでそうとは思えない▲先輩の教えは「ありきたりな言い回しに逃げ込むな」ということで、確かに好んで使うべきではない。それはそうなのだが、この夏はしばらく聞かなかった「決まり文句」にいささか新鮮な響きがある▲ニュースでよく見聞きした「お盆を古里で過ごした帰省客のUターンラッシュが…」。おととし、昨年は、お盆の帰省が少数で「ラッシュ」がなかった。3年ぶりに行動制限なしの今夏のUターンでは、きのうまで交通機関が混雑したという▲コロナ感染が高止まりでの帰省は、大勢での外食を避けたりと「慎み」もあったとお察しする。「元気でね」「また来るよ」。久しぶりのUターンの言葉は、弾んだ声で交わされただろうか▲花火に爆竹と、にぎやかな長崎のお盆が過ぎて、帰省ラッシュも終わった。静けさの中で、自生している白くかれんなユリが長崎の晩夏を彩る。あ…。(徹)

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