突然の雨にセットを変更し、表彰台へ。予選で「欲をかいた」野尻と、「具体的には話せない」フェネストラズ/第7戦決勝

 モビリティリゾートもてぎで8月20日に行われた2022全日本スーパーフォーミュラ選手権の第7戦決勝は、スタート直前に降り始めた雨の影響で突然のウエットレースとなったが、チャンピオンを争う野尻智紀(TEAM MUGEN)と、サッシャ・フェネストラズ(KONDO RACING)が表彰台の一角を分け合った。

 ここでは、タイトルを争う野尻とフェネストラズの第7戦のレースの裏側を追う。優勝した山本尚貴(TCS NAKAJIMA RACING)がグリッドでのセット変更をしなかった一方で、この2台は雨を受けてセットアップに変更を施していた。

■鈴鹿での教訓を活かし今回も表彰台獲得の野尻

「明日も丁寧な仕事を心がける」

 予選では4番手に甘んじた野尻。今シーズンの中では2番目に悪いグリッドポジションだが、「(予選でトップ3に来られなかったことについての)原因は分かっています。ちょっと欲をかいてダウンフォースをとりにいったらバランスを崩れてしまったという感じでした。あとは集団の中でタイヤをウォームアップしなければいけなかったので、その辺も含めてベストではなかったなと思います」と冷静にセッションを振り返り、特に動揺する雰囲気もなかった。

 決勝スタート15分前に雨が降り出すと、ウエットタイヤに交換するとともに、前後のサスペンション周りも微調整を加えるなど、コンディション変化に対しても迅速に対応しているチームの姿が印象的だった。

「僕たちは、レインでドライセットのまま行くと、かなり苦戦が強いられるなというのは、戦う前から分かっていたので、それだったら出たとこ勝負で、レインのセットアップにしていこうということで……割と早く決まった感じでした」

「実際に走ってみたら、周りよりかは良かった感じでした。ただ完全に仕切れた感じではなかったので、まだまだやらなければいけないことはあったという感じでした」と野尻。大湯都史樹(TCS NAKAJIMA RACING)がトラブルで後退し3番手に上がると、一気に2番手のフェネストラズに接近し、追い抜くのも時間の問題かと思われたが、そこから追いついたり離れたりする動きを繰り返していた。

「サッシャ選手との差を縮めていって、抜ければ良かったんですけど、まだ抜けそうな感じではなかったので、彼のタイヤ(のグリップ)が落ちてくるまで、様子を見ようと長いスパンで物事を考えて、一度離れることにしました。ずっと近いところにいても、僕が損をするだけなので、勢いよく追いついた瞬間に抜こうという感じのイメージでレースを組み立てていましたけど、それがうまくできなかったです」

 今回も目標としている優勝には手が届かなかったものの、きっちりと3位表彰台で11ポイントを加算した野尻。合計104ポイントとなり、明日21日の第8戦での結果次第では最終大会を待たずにチャンピオンが決まる可能性もあるが、そこについても冷静に捉えていた。

「チャンピオンシップとは関係なく、明日のレースをしっかり勝つという心構えでやっていきたいです。こういった時こそ、ひとつひとつを丁寧に、物事を積み重ねていく必要があると思うので、しっかりと丁寧に考えて、丁寧に判断をして、丁寧に仕事することを心がけていけば、最後に笑えるのは僕なのではないかなと思うので、油断しないように気をつけていきたいです」

■復活の2位表彰台で不安を解消したフェネストラズ

「タイトル争いは、まだ何が起こるか分からない」

 2番グリッドからのスタートとなったフェネストラズも、ウエットタイヤへの交換に加えてフロントノーズを外してサスペンション周りの微調整を行なっているように見えた。

「具体的には話せないけど(苦笑)」というフェネストラズだが、最後までウエット路面のままでのレースになることを予想しての判断だったという。

「あの時にレインのレースになるとは思っていたけど、チームの中には『雨が止んでドライに戻るんじゃないか』という意見もあった。でも、僕も含めて『雨は降り続くだろう』と予想して、セットアップに若干の変更を加えた。結果として、その判断はポジティブだったと思うし、セット変更したことが正しい方向に機能していたと思う」

「あとは第3戦の鈴鹿でタイヤのデグラデーションに悩まされたけど、そこから学んで、今回はうまくマネジメントできたと思う」

「残念だったのは途中にターン9(V字コーナー)でミスをして3秒ロスしてしまったことと、バイザーの中に水が入ってきて、全然見えなくて苦労した。セーフティカーが入る前あたりから、その症状が出ていた。少し水が入ってくるのはいつものことだけど、ここまでの状況になったのはレース人生の中で初めてだった。そこからはリスクを負わずに2番手をしっかりキープすることを意識して走った」

 さまざまな要因もあって最後はペースを上げることができず悔しい表情もみせたフェネストラズだが、この結果により合計74ポイントとなって、ドライバーズランキング2位に浮上。野尻を30ポイント差で追いかけることになったのだが、実質的に“もう後がない”という状態に変わりはない。

 それでもフェネストラズは「30ポイント差ということで、差は大きい状態だけど、レースだから何が起こるか分からない。もし野尻選手が1戦でもノーポイントに終わって、僕が良いレースをして高得点を獲得できれば、チャンスが大きく出てくる。僕としては最終戦の鈴鹿までプッシュし続けるだけだ」と前向きに捉えていた。やはり彼の中では、第6戦富士での大クラッシュから、予選・決勝ともに2位を獲得できたことが自信につながっているようだ。

「とにかく富士でのできごとから、ここに戻ってくることができて本当に嬉しく思っている。昨日は新しいクルマでトラブルも出て、ニュータイヤでのシミュレーションができていなかったから、今日に対しては少し不安だった」

「だけど予選アタックの感触もそこまで良くなくて、フィニッシュラインを通過した後に『ごめん、良いラップを刻めなかった』と無線で話したら、チームから『2番手だよ!』と言われて、本当に驚いた。そこでポジティブになることができて、決勝の結果につながった。明日はどうなるか分からないけど、精一杯頑張るよ!」

 いよいよ佳境を迎えつつある2022年のドライバーズタイトル争い。“もてぎ2連戦”の2レース目となる第8戦は、予選からますます目が離せない展開が待ち受けていそうだ。

2022スーパーフォーミュラ第7戦&第8戦もてぎ サッシャ・フェネストラズ(KONDO RACING)

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