【ワクチン接種】薬剤師は担い手になるのか?

【2022.08.25配信】厚労省は8月23日、「新型コロナウイルス感染症の対応を踏まえたワクチン接種・検体採取の担い手を確保するための対応の在り方等に関する検討会」(担い手検討会)を開催した。薬剤師業界では「薬剤師はワクチン接種の担い手になるのか」ということに関心が高まっている。

「薬剤師はワクチン接種の担い手になるのか」について考察する前に、今回の議論の全体像をみてみたい。

大元にあるのは6月17日の「新型コロナウイルス感染症に関するこれまでの取組を踏まえた次の感染症危機に備えるための対応の方向性(新型コロナウイルス感染症対策本部決定)」だ。この方針に基づき、それぞれの対応部署が詳細を詰めている状況にある。

例えば、厚労省医政局は8月16日に社会保障審議会医療部会を開催。感染症法改正を伴う医療提供体制の強化の議論を急いでいる。感染症蔓延時の医療提供体制確保計画を平時から策定し、都道府県と医療機関で協定を締結する仕組みを創設。履行の確保と併せ減収補償などの仕組みもつくる。加えて、検査体制についても都道府県は検査機関などと協定を締結し、計画的に検査能力を確保。ワクチンや治療薬についても研究環境を整備するとしている。これらは今年の臨時国会にも感染症法改正を審議することを見込み、令和5年度に策定する都道府県の第8次医療計画に間に合わせたい意向が示されている。
平たくいえば、今回の教訓を踏まえて、平時から新興感染症蔓延という有事に備える体制をあらかじめ計画・確保しておこうというものだ。

他方、「担い手検討会」。こちらは、検査とワクチン接種の担い手について、法的にも整理しておこうというものだ。

周知の通り、現行法上、診療の補助として行う場合も含め、新型コロナウイルス感染症に係るワクチン接種のための注射は、医師、看護師、保健師、助産師、准看護師以外の者が行うことができない。現在、歯科医師・臨床検査技師・救急救命士によってコロナワクチン接種が行われているが、それは法の解釈を通知で示した「違法性の阻却」に過ぎない。
医療部会では日本歯科医師会がワクチン接種の行為について法的に位置付けてほしいとの要望を出していた。

さて、この議論の中で「薬剤師が含まれるか否か」だが、これを左右するのはたった1つだ。
「政府がどこまでを想定するのか」である。
段階によってあらかじめ規定しておく職種範囲の考え方が変わる。

いわば“レイヤー1”は今回のこれまでの実態にそった範囲を想定すること。その場合は医師・看護師の確保充実策強化となる。
担い手検討会の中で日本医師会や日本看護協会の委員は「実際に人材がいなくて業務ができなかったのかどうかの調査がしっかりされないと適切な判断にならない」「確保策が十分なされたのか疑問」といった意見を表明していた。これは実態に応じた対応を求める意見である。

ただ、「実際に今回のケースでも人材は足りなかった」との意見は自治体や医療関係者からも示されており、より確実な人材を確保しておく意味では歯科医師・臨床検査技師・救急救命士のワクチン接種を法的に位置付けておくことも必要となる。これが“レイヤー2”である。

では、“レイヤー3”とは何かといえば、今回のケースに限らず、未知の新興感染症のパンデミックに備える考え方だ。ここで初めて、薬剤師を含めたその他医療職種の確保が俎上に上がる。

日本薬剤師会は担い手検討会に提出した資料の中で、「より毒性・感染性の高い変異株が登場」した場合を前提として、「薬剤師がワクチン接種の担い手として対応できる余地がある」と意見を述べていた。「毒性・感染性が高い」ということは、今回以上に医療逼迫、崩壊が想定されるものであり、そうなれば医師・看護師はワクチン接種などの予防ではなく、治療に専念せざるを得ない状況を招く。日本薬剤師会はそうした事態までを想定し、幅広に医療従事者を確保しておく必要を提起している。

編集部コメント/「薬剤師は担い手に的確か」の答えは「YES」

ここからは本紙の意見になるが、「では“レイヤー3”において薬剤師はワクチン接種の担い手に的確か」との問いの答えは、当然のことながら「YES」であると考える。

薬剤師は今回のコロナ対応だけをとってみても、海外でワクチンがいち早く承認され、国内では未承認の情報として行政や自治体での情報伝達ができにくい状況の中でも、海外の文献にアクセスし、いち早くワクチンの効果・副作用などの特性について解読し、咀嚼し、住民への情報提供に備えていた。薬剤師は学生のころから英語の文献を読み解き、解釈する訓練がされているのである。
本紙でも過去に報道した通り、名も無い街の中の薬剤師がそれぞれこうしたアクションを起こし、迅速なワクチン接種会場設置に協力につなげていた。地域に薬剤師がいることの価値を示していた。

「侵襲性」などの手技を重視する声もあるが、薬剤師会が提出した資料の通り、手技についてはシミュレーター等を用いた研修プログラムの修了者が続々と増えている状況にある。手技と同じように問われるのはワクチンへの知識であり、それを地域住民に伝えられるコミュニケーション力であるはずだ。

なお、今後の制度改正の方向については、平時の規定と有事のみに限った規定の選択肢がある。
ただ、有事のみに限った方向の指摘も委員からは出ている。発動の要件を事前に規定しておき、その場合に動員される職種を規定しておく手法だ。

日本看護協会常任理事の井本寛子氏は「一時的に独占業務を解除する場合の要件を規定しておくべき」と述べたことに加え、「厚労大臣が業務独占を解除することが妥当」との考えを述べていた。

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