<南風>好きであればこそ

 卒業年に学生結婚、卒業式直前に長女が生まれた。妻も獣医師で同級生なのだが、長女出産直後の国家試験に奇跡的に合格、二人そろって獣医師となった。

 農林水産省退職後、12年前に家族と沖縄に移住しペットの動物病院で獣医師として勤務を始めた。卒業したてで公務員しか経験していない私はペットの病気のことはすっかり忘れていて、再び学び直す必要があったが、そんな新米の私を沖縄の飼い主さんたちは温かく受け入れてくれた。

 沖縄の飼い主さんたちに恩返しがしたいと思い、奮起して東京大学の附属動物医療センターの外科研修医となった。

 子どもと妻は沖縄に残り、単身赴任で故郷の東京に戻ったが錦を飾るどころか、待っていたのは医者の研修医と同じような極貧かつ睡眠不足と闘う日々。それでも頑張れたのは技術を少しでも多く吸収したい、それを自身で体現するのだという気概と、農水省を辞めたことを後悔しない人生にするんだという自身への誓いを死守するためだ。沖縄で苦労をかけている妻と子に報いるために。

 苦しいことばかりではなく、当時、病気の動物を治せない自身の無力さから、技術の吸収を強く渇望しており、その願望を満たしてくれるものが目の前にあり、それを得られる喜びと楽しさの方が大きかった。

 日付が変わっても、脚立に上り教授の肩の上から見ていた術野は今でも脳裏に焼き付いている。その後夜通しで術後管理し数日後には元気に退院する動物たちを見て心から感動した。あの時、指導に当たってくれた先生たちと先輩、同僚には感謝しかないし、今でも連絡を取り合っている。

 好きこそものの上手なれ。苦しさも好きであれば乗り越えられる。本当に好きなものに没頭しまい進することは人生をこの上なく豊かにしてくれるはずだ。

(周本剛大、琉球動物医療センター院長 沖縄VMAT隊長)

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