「まこも」を育てて地域を元気に 休耕田で農業体験 広島・鈴張地区

広島県内に増えている休耕田…。人の手が入らなくなった農地で気軽に農業体験をする人が増えています。その体験を通じて、地域も元気にしようというグループが、広島市で活動しています。

【写真を見る】「まこも」を育てて地域を元気に 休耕田で農業体験 広島・鈴張地区

背丈以上の高さの植物を手に持った鎌で思い切り刈り取っていきます。広島市安佐北区の鈴張地区。女性たちが刈り取りに精を出しているのは、イネ科の「まこも」という植物です。

このまこもを県内5か所で育て、「まこも茶」などに商品化しているのが、「まこもプロジェクト」のメンバーです。

まこもプロジェクトのメンバー
「(この辺りは)稲を作らずに耕作放棄地になっていたんですよ。そうなると、ダムの役割をしていた田んぼがなくなる。川の水が増えて、水害とかがたくさん起きるので、まこもを植えて耕作放棄地を救いましょうという取り組みなんですよ」

この日、参加した6人のメンバーのうち、ほとんどは農業未経験だったといいます。

まこもプロジェクトのメンバーたち
「自給自足とかすごいいいなというあこがれがあったので、たまに手伝いに来れるといいなというのがスタートでハマっていった」

「農作業は農家さんがやるもので、自分たちは消費者・買う側。下手にど素人が農作業に首をつっこんじゃいけないんじゃないかという固定観念があった」

プロジェクトの魅力は、「参加できるタイミングで無理せず、気軽に農業を楽しめること」です。

まこもプロジェクトのメンバーたち
「なんか、けっこう無心になれるので、農作業は頭の中が空っぽになる感じが気に入っている」

「自然の鈴張の田舎の景色にいやされる。まこもの田んぼに入ったら葉っぱがこすれる音がすごく心地よい。マンションに暮らしているので、全然、空気が違う」

鈴張で刈り取ったまこもは、1週間ほど乾燥させてカットした後、「お茶」にするための焙煎作業に回されます。

煎る時間で味に違いが出るそうで、浅煎りと深煎りの2種類を作り出していきます。今の時期は水出しでもおいしい浅煎りが人気だといいます。

まこもプロジェクトのメンバー
「かおりがハーブティー。甘みもあって、すごくさわやか」

メンバーも商品には自信をのぞかせます。

まこもプロジェクトのメンバー
「機械で作っているのかと思ったら全部、手作業でやっていたので、本当に自然のままできている。添加物もないし、カフェインもなく、最初から最後まで人の手を使っている」

まこもを育てている鈴張地域には、人の手が入らなくなった休耕田が多くあります。

そこに目を付けたのが、プロジェクトのリーダー・千手えり子さんです。もともと横浜に住んでいました。

まこもプロジェクト リーダー 千手えり子さん
「休耕田が増えているのは聞いていたが、農業者でもないので、わき役のように傍観していた」

千手さんの意識を変えたのが、2014年の「広島豪雨災害」でした。

千手えり子さん
「2014年に水害をニュースでみてびっくり。広島って温暖だと思っていたので、あの水害は驚いて、胸が痛んだ」

水害対策を調べていた千手さんは、田んぼの保水力に注目します。

休耕田を耕し、再び水を管理することで、災害が起こりにくい環境が作れるのではないかと考えたのです。また、イネ科の「まこも」は、保水力が高い植物であることもわかってきました。

千手えり子さん
「わたしたちが里山に入っていって、楽しみながらまこもだったら農薬も肥料もいらないし、田んぼほど手がかからないので、やってみようということで始めた」

まこもファンの集まりで農家に直接、話を聞いたり、日本各地のまこも茶を比べて、お茶として抽出しやすい大きさを研究したりしました。

夫の退職を機に広島で生活を始めた千手さんですが、プロジェクトを軌道にのせるまでにはこんな経験も…。

千手えり子さん
「最初は視線が冷たかったし、とにかくキワモノみたいな扱いだった。(鈴張地区の)農家さんも稲や野菜のことはよく知っているけど、まこもを知らない方がたくさんなので、理解してもらうのがまず難しい」

それでも粘り強くまこもを育て、商品化を続ける千手さんたちに、最初は距離をとっていた地域の人たちも徐々に心を開き始めました。

千手えり子さん
「最近は逆に興味を持って、声をかけてくれる方とか、なんかちょっと視線が変わってきているかなっていうのは感じる」

プロジェクト開始から3年目を迎えた今では、地域の人との交流や自然を楽しむ余裕も出てきました。

千手えり子さん
「空を見れば青いし、雲も流れている。さらさらと葉っぱが音を立てている。そういうひと時が、肉体は疲れるけど、いい眠りになる。山でのフィットネス、そんな感じ」

まずは、このお茶の存在を広島の人たちに知ってもらって、「まこもプロジェクト」に参加してもらうことが今の千手さんの目標です。

まこもプロジェクト リーダー 千手えり子さん
「みんなが好きなときに来て、夏は合宿のように作業したり、春は田植えを子どもたちもしたり、そういう体験の場を作れるといいなと思っている」

千手さんは、これからも地域を元気にする活動を模索していきたいと話しています。

© 株式会社中国放送