円安、原油高、物価上昇…コロナ禍で高まった資産形成ニーズへの影響をFPが読み解く

コロナ禍で高まった資産形成ニーズですが、足元での円安ドル高や原油高・原材料費の高騰による物価上昇など、投資環境の変化はどのような影響を与えているのでしょうか?

株式会社マネーフォワードが行なった『2022年夏 投資と貯蓄に関するアンケート調査』をもとに、最近の投資傾向を解説します。


3割強がこの3年以内に投資を開始

現在行なっている投資を複数回答で聞いたところ、「投資信託」が85%とダントツで、2位の「株式投資(日本株)」より20%も多い結果となりました。また投資を始めた時期については、34%の方が直近3年以内に投資を始めています。この数字は筆者の想像以上に多い印象を受けたのですが、これにはどのような経緯があったのでしょうか。

3年以内の投資環境

本調査が実施された2022年半ばまでを基準とし、この3年内での投資意識と関連すると想定される動きを振り返ってみました。

まず老後2,000万円問題により、老後の生活費・貯蓄への関心が高まる中で、消費税の増税による生活費上昇への懸念から、年金や貯蓄、節約や投資への関心も高まりました。

そこへ、コロナ禍による株価の急落とリモートワークの進展に加え、キャッシュレス決済やマイナポイントによるポイント付与、ポイント投資への関心、株価の急回復など様々な要因が絡み合って、ジワジワと投資へ一歩踏み出すかたが増えたのだろうと推測されます。

この期間は、コロナ禍による急落からの回復局面であり、コロナショック時の下げ幅の倍以上、株価が上がっていったわけですから、結果的に世間の関心も大きくなっていったのでしょう。

2022年に入り、年初から米利上げ加速懸念により世界的に株安が進行しました。さらには、2月下旬のロシアによるウクライナ侵攻により、すでに上昇中であった原油や、横ばいであった円安が一気に進行しました。足元では原油価格がいったんピークをつけたものの、米国では全般的にインフレが進行しており、米国株は経済指標が良好だと売り、経済指標の悪化、インフレの鎮静化では買いという展開となっています。今後は住宅販売や価格、個人消費やマーケット関係者のレバレッジ取引の収縮ペースがどのようになるのか、なども気になるところでしょう。

2022年下半期の投資先は?

2022年下半期に投資先や投資額を増やすことを検討している方に、その検討先を聞いたところ「投資信託」が37%、「株式投資(米国株)」が22%、「株式投資(日本株)」が16%と、現在の投資先で1位だった投資信託への追加投資のニーズが強い結果となりました。これら上位3つの投資先について、現状を見ていきましょう。

・米国株
直近では、ジャクソンホール年次シンポジウムにおけるパウエル議長の発言が大きな話題を呼びました。この発言によると、FOMC(連邦公開市場委員会)の最大の焦点は、インフレ率を2%の目標まで引き下げることであり、金利の上昇・成長の鈍化・労働市場の軟化によって家計に痛みを伴うものになったとしても、物価の安定を最優先させることを明言しました。

この発言を受けた直後のNYダウなどは3%以上の下落となりましたが、今後も各種経済指標や要人発言に注目しつつも、インフレの鎮静化には時間がかかりそうです。2022年前半においては、アメリカの利上げペースの加速懸念やウクライナ侵攻の影響もあり、原油高やドル高の継続、株安局面が目立つ展開となりました。

・日本株
物価上昇に悩まされるアメリカとは大きく異なり、長くデフレ状態にあった日本においても、いよいよ物価が上昇してきました。2022年7月の生鮮食品やエネルギーを除くコアコアCPI(消費者物価指数)は前年同月比1.2%上昇と、明確にプラス圏になってきているものの、低金利状態は継続しています。

それがかえって、日本の株価がアメリカなどに比べると強い要因となっており、一時2022年初の株価水準を回復してきました。

・投資信託
想定以上に日本株は堅調で、かつ米国株が日本株より弱い状況となり、S&P500などのインデックスに連動する投資信託は円安ドル高の為替状況もあり、米国株の投資家にとって取得価額が上がってしまう悩ましい展開が継続しています。国際分散投資による長期積立ては、なるべく米国株など一点に集中しすぎないことが重要です。

また将来的な米国債利回りについては、ある程度の想定レンジが明確になりつつありますので、米国債などの外国債券への投資も人気がでてきそうな気配となっています。どちらにしても「長期・分散・積立」というセオリー通りに積立てを継続しつつ、適度なリバランス(リスクの再調整)も実行していきましょう。

NISAとiDeCoの制度変更について

また、つみたてNISAとiDeCoについて、それぞれ大きな動きがあったので解説します。

つみたてNISA

8月末、岸田政権の「資産所得倍増プラン」の具体策として話題になったのがNISA(少額投資非課税制度)の拡充案です。このNISAには主に、通常の「一般NISA」と「つみたてNISA」があり、現状の非課税期間と非課税投資枠はそれぞれ次の図のようになっています。

この両制度は同一年内において、それぞれ一方しか活用できなかったのですが、今回の拡充案では、併用と非課税期間の恒久化、非課税投資枠の増額、未成年でも活用可能にすることなどが2023年度の税制改正要望として検討されているようです。具体的はまだ明示されておりませんが、両者とも年末くらいまでには明確になるでしょう。

iDeCo(個人型確定拠出年金・個人型DC)

iDeCoは、企業独自の年金制度である企業型DC(確定拠出年金)と異なり、自分でつくれる年金制度がiDeCoです。この企業型DCとiDeCoは、従来は規約に定めがない場合は併用できませんでしたが、2022年10月より併用可能となります。

企業型DC・iDeCoの毎月の掛金(積立)上限額は、他に企業年金があるかないかで変わりますが、両方を合算して、毎月55,000円を超えない範囲で、10月からは次の図のようになります。

勤務先の規約によっては、満額活用できていないかたもいましたが、iDeCo併用が可能になることで、毎月の掛金額を上限の55,000円にできる・近付けられる方が増えるようになります。

制度を活用し、より早く・長く資産形成を

我々の将来のお金を貯めるための国の制度や口座は、これまで徐々に改善されてきました。事前にある程度の知識や情報網などがあれば、より長く、より早く、有効な制度などを活用することも可能になります。資産形成においては長期の投資期間を早めに確保しておくことは大きなアドバンテージになり、経済的にも心理的にも余裕をもって資産形成ができるようになります。

また、有利な制度などの有無にかかわらず、課税か非課税かに関わらず、資産形成そのものが我々の将来にとってとても有効であるということも、再度想い起こしていただければ幸いです。


2022年夏 投資と貯蓄に関するアンケート調査』概要
実施時期:2022年7月27日(水)~8月2日(火)
調査対象:お金の見える化サービス『マネーフォワード ME』利用者
回答者数:1,921名
調査手法:インターネットを利用したアンケート調査
※割合表記は小数点第一位を四捨五入

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