【安倍元首相死去】神奈川県内の庁舎に記帳所を設置する動き 政治的中立性は

県庁本庁舎に設置された記帳所。黒岩知事(右)も記名した=7月11日午後、横浜市中区

 安倍晋三元首相の死去を受け、神奈川県や横浜、川崎市など一部自治体で、庁舎に記帳所を設置する動きがあった。安倍元首相は、自民党元総裁という立場もあり、政治的中立性を考慮した対応も求められるが、いずれの自治体もそうした観点で議論していなかった。専門家は「根拠が曖昧で、情緒的な判断だ」と指摘する。

 「長年首相を務め、衝撃的な亡くなり方をした。弔意を表したいと思う市民が大勢いると判断した」

 県担当者は、こう説明する。

 県は、知事の判断を仰いだ上で、7月11日から同18日まで県庁本庁舎に記帳所を設置し、2230件の記帳があったという。県内では一部で抗議もあったが、担当者は「政治的な意図はなく、問題ない」と話す。

 設置したのは県のほか、横浜、横須賀、小田原、鎌倉、大和市で、各市長の判断に基づいて設置を決めたという。設置理由は県と同様だ。横浜市担当者は「弔意を表したい市民が一定数いれば、それを受け止める場所を設けるのが自治体の業務。政治的中立性を損ねるものではない」と影響を否定した。

 各自治体は、安倍元首相の行政の長としての立場を踏まえ、市民の弔意を受け止めるために対応しており、いずれも政治的中立性の担保について議論しなかったという。「急な対応を迫られ、議論に至らなかった」(鎌倉市)と説明するが、政治的中立性を損ねる行為については法律などで具体的に示されておらず、記帳所設置に関する基準もない。明確な根拠がないまま異例の対応を取ったことになる。

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