そこにボタンはない

 街灯のそばを男がうろうろしている。「何かお捜しですか?」。道行く人が尋ねた。「上着のボタンを落としましてね」「ここで落としたんですか?」「いいえ。でも、ここが一番、明るいもので」。西洋のジョークにある▲「国民の支持」というボタンを、今の政権はどこかに落とした。なおも火が消えない旧統一教会の問題。厳しい視線が向けられる国葬…。落とした場所の心当たりは、いくつかあるだろう▲政権が誕生した時、岸田文雄首相が重んじる「聞く力」は、ほのかな希望の光を放っていた。その“街灯”のそばをうろついていれば、すぐにボタンを拾えるさ。そんな思い違いが、このところ繰り返されていないか▲新型コロナに感染した全員の情報を届け出る「全数把握」もそうだろう。見直しを求める都道府県の声に耳を傾けた…ように思えたが、実は自治体への“丸投げ”だった▲把握するのは「全数」ではなく、高齢者など「感染リスクの高い人」に限る。県はきのう、そうした見直しを国に届け出た。国が対応を全国一律にしたら、これも変更があり得るという▲二転三転、後手に回る、ちぐはぐ…。こんな対応を「聞く力」の産物とは言うまい。この繰り返しでは国民の信頼は得られないと、ボタンの取れたその人はそろそろ心すべき時だろう。(徹)


© 株式会社長崎新聞社