「最後の力を振り絞った」またしても助っ人ドライバーとしてトンが活躍。ライバルもリベンジを誓う

 9月4日に栃木県のモビリティリゾートもてぎで開催されたENEOSスーパー耐久シリーズ2022 Powered by Hankook第5戦『もてぎスーパー耐久 5Hours Race』の決勝は、3番グリッドからレースをスタートしたST-Xクラスの888号車Grid Motorsport AMG GT3(マーティン・ベリー/ショウン・トン/高木真一/山脇大輔)が今季2勝目を飾った。

 5時間レースとして行われた2022スーパー耐久の第5戦。前日に行われた予選では、永井宏明と上村優太がアタックを行った16号車ポルシェセンター岡崎 911 GT3Rが今季3度目となる総合ポールポジションを獲得し、決勝でもレースをリードするかと思われた。

 いざ決勝がスタートすると、16号車は1周目の3コーナーで2番手の23号車TKRI松永建設AMG GT3を駆る元嶋佑弥にかわされ、続く2周目には777号車D’station Vantage GT3の藤井誠暢にも先行を許し3番手に後退。さらにその直後には左のドアミラーが脱落してしまうアクシデントに見舞われてしまう。

「31号車と接触してしまってミラーが取れてしまいました。それで(ピットでの修復を命ずる)オレンジボールが出てしまったので、ピットインを余儀なくされてしまいました」と語るのは16号車のスタートドライバーを努めた永井だ。

 この緊急ピットインによりクラス最後尾へと後退した16号車とは対象的に、トップに立った23号車は、777号車の右リヤのアップライトが破損してしまうアクシデントにも助けられ、2番手に対して1分近くのリードを奪いレースを支配し始める。

 だが、レースが3時間を超えた98周目、DAISUKEに交代した23号車は最終ビクトリーコーナーの入り口でバックマーカーをかわそうとした際に姿勢を乱してしまいコースアウト。まさかのグラベルスタックを喫してしまい優勝争いから脱落することに。

 これで総合トップは2番手につけていた31号車DENSO LEXUS RC F GT3の永井秀貴となったが、その後方から「ちょっとだけ集中して最後の力を振り絞った」と追い上げをみせたのが、888号車の最終スティントを担当したショウン・トンだ。

2022スーパー耐久第5戦もてぎ Grid Motorsport AMG GT3(マーティン・ベリー/ショウン・トン/高木真一/山脇大輔)

 今戦からGrid Motorsportに加わることになったトンだが、過去にはスーパーGT GT300クラスにも参戦しており、スーパー耐久では今季2022年の富士24時間でもHELM MOTORSPORTSのDドライバーとして“助っ人参戦”を行い総合優勝を達成しており、その実力は折り紙付き。さらに“チーム”という面では、2020年にMercedes-AMG Team HIRIX Racingで山脇大輔と根本悠生とともに第4戦もてぎを制しており、高木真一が加わった同年の富士24時間でも総合優勝を飾っている。そんな意味では今回のチーム加入も気心の知れたメンバーとの参戦だ。

 そんなトンは、今回の第5戦では黒澤治樹に代わりGrid Motorsportに“助っ人”として参加し、最終スティントではトップをいく31号車のジェントルマンドライバーである永井よりも1周あたり2秒ほど速いペースで追い上げを披露する。そしてレース残り50分というところでテール・トゥ・ノーズに迫ると、3コーナーへの飛び込みで一気に31号車をオーバーテイクして首位に躍り出る。

「今日は落ち着いてレースに集中することができた。レースペースにも集中することができたから、その結果勝つことができたんだ」とトンはレース後に笑顔をみせた。

「31号車がAドライバーであることは分かっていたから、そのマシンに追いつくことを目標しながら集中したよ。マシンの状態も良くて、最後にアタックしてオーバーテイクすることができた」

 これでトップに立ったトンだったが、その背後には同じく“エース”Bドライバーの藤波清斗がステアリングを握る81号車DAISHIN GT3 GT-Rが1周あたり1~2秒ほど速いラップタイムで追い上げてきていた。このペースのままだとレース最終盤には2020年のスーパーGT GT300王者でもある藤波に迫られてしまう展開になっていたが、トンはこのときも「81号車とのギャップはしっかりと管理していた」と語った。

 レースは最終的に81号車藤波が11秒差まで迫ったところで5時間を迎え、トンはリードを守りきったままトップチェッカーを受けた。「チームとの初めてのレースだけど、優勝することができてとてもうれしい。僕の目標はチームがチャンピオンになることを助けることなんだ」と優勝請負人としての仕事を完璧に遂行したトン。

 そして自身のドライブ中にチームベストを記録する速さを披露するも、惜しくもトップを捉えることのできなかった藤波は「精一杯攻めて、行けるところまで行きましたけど追いつきませんでした。負けは負けなので、また次戦頑張ります」とリベンジを誓った。

 また、今季3度目の総合ポールを獲得しながら、またしても優勝を逃した16号車の永井も「今回はアクシデントがありながらも表彰台まで戻ってくることができたので上出来だと思います。次戦は、クルマのペースをもっと優勝できるようなところまで持っていき、次こそは優勝したいと思いますので頑張ります!」と意気込んだ。

 今回の優勝でST-Xのランキングトップに立ったGrid Motorsport。しかし、ライバルたちも指をくわえてその活躍を見ているはずはない。残り2戦となった2022年のスーパー耐久だが、FIA-GT3マシンで争われるST-Xクラスの熱き戦いは今後も続いていくはずだ。

2022スーパー耐久第5戦もてぎ ST-Xの表彰式
2022スーパー耐久第5戦もてぎを制したマーティン・ベリー/ショウン・トン/高木真一/山脇大輔(Grid Motorsport AMG GT3)

© 株式会社三栄