コロナ療養者郵便投票 活用低調 期間に制約、手続き煩雑

岡山県新庄村長選・村議補選で期日前投票をする有権者ら=8月24日、新庄村役場

 新型コロナウイルス感染者の投票機会を確保するため、昨年6月施行の特例法で導入された療養者向けの郵便投票が十分に活用されていない。投票日の4日前までの請求が必要なことから、とりわけ選挙日程が短い地方選では利用期間が著しく制限されるためだ。岡山県内でも告示後に感染が分かり、請求が間に合わなかった有権者もいるという。手続き自体も煩雑で、専門家は来春の統一地方選を前に改善の必要性を指摘する。

 「時間的な制約が厳しすぎる。5日間しかない選挙での利用は想定されていないのでしょうか」

 岡山県新庄村で8月23日告示、同28日投票の日程で行われた村長・村議補選。村で暮らす30代男性は告示翌日の24日に陽性が判明した。知人から郵便投票ができると教えられ、村選管に問い合わせたのは26日。既に期限から2日が過ぎていた。

 村選管によると、今回の選挙の当日有権者は731人。村で療養中だったのはこの男性を含めて5人いたが、郵便投票の利用はゼロだった。「県内で最も有権者数が少ない新庄村では1人が投票する、しないの影響は大きい」と担当者。村長選の投票率(84.68%)は2014年の前回(93.76%)を9.08ポイント下回った。

参院選わずか6人

 郵便投票は不在者投票の一種で、従来は重度の身体障害者らに限定されている郵便投票の対象を拡大し、特例法で自宅や宿泊施設での療養者、ホテルなどで待機する帰国者の利用を認めた。請求書に保健所などが交付する外出自粛要請の書面を添え、投票日の4日前までに選管に送付し、投票用紙を受け取って返送する仕組み。最短で投票まで4日間を要する。

 新庄村長選・村議補選と同じく、流行「第7波」が拡大した8月に告示された井原市長選、早島町議選でもコロナ感染で郵便投票を行ったのは各1人にとどまった。ともに郵便投票を希望しながら手続きが間に合わなかったケースがあったという。

 国政選挙でも利用は低調だ。岡山県選管などによると、7月の参院選公示日(6月22日)当日の自宅、宿泊療養者数は県内で計1392人。これに対して郵便投票を行ったのは岡山選挙区、比例代表ともにわずか6人だった。

 総務省は制度について「投票の機会を確保するという観点から意義がある」とするが、選挙期間が少なくとも17日間の参院選ですら、県内での郵便投票の利用は療養者数の0.5%にも満たない計算だ。

2回の投函必要

 手続きの煩雑さもネックとなっている。

 郵便投票には請求書と投票用紙の計2回の「投函(とうかん)」が必要になる。療養者は外出自粛下のため、投函には第三者の手助けも欠かせない。実際、井原市長選では郵便投票を希望しながら、手続きが煩雑だと知って断念した人もいたという。

 来春に統一地方選を控え、岡山県選管では宿泊療養者に制度を知らせるチラシを渡したり、ホームページで紹介したりと周知を進めているが、出馬準備を進める各陣営には「制度の使い勝手が向上しない限り、利用は広がらないだろう」との見方が強い。

 選挙制度に詳しい日本大の林紀行教授(政治学)は「現状ではコロナ感染者の投票する権利を十分に保障する制度にはなり得ていない」とした上で、「デジタルの活用で投票用紙の請求手続きの短縮を図るなど、有権者の利用しにくさを早急に解消しなければならない」と指摘する。

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