ハミルトン協賛、参入障壁排除を狙う次世代育成プログラム“レーシング・フォー・オール”始動/エクストリームE

 2020年に英国王立科学アカデミー(RAE)と協力し『The Hamilton Commission(ハミルトン・コミッション)』を立ち上げていたルイス・ハミルトンは、2022年よりFIA国際自動車連盟のインターナショナル戦に昇格した電動オフロード・シリーズ『エクストリームE』に参戦する自らのチーム“X44”の活動と並行し、次世代タレントを育成する“Racing for All(レーシング・フォー・オール)”のイニシアチブを立ち上げると発表。

 シリーズ側も「チームオーナーであるルイス・ハミルトン卿を含む、これらのイニシアチブの背後にいる人々と協力し、あらゆる障壁に対処するうえで具体的な効果をもたらす行動ベースのプログラム創設をうれしく思う」とし、チャンピオンシップに参戦するニコ・ロズベルグやジェンソン・バトンといった“旧友”からも歓迎の声が挙がっている。

 F1で7度のチャンピオンを獲得するハミルトンは、自らの名を冠したハミルトン・コミッションの活動を通じて、これまでイギリスを中心に世界のモータースポーツ界における黒人表現の改善を筆頭に「モータースポーツ全体の指導的役割を担うすべての人に、多様性と包括性に関する測定可能な進歩を推進する個人的な責任を負い、過小評価されているすべてのグループにアクセスと経験の公平性を提供し、組織の成功を可能にする」ことを目標に活動を続けてきた。

 そのハミルトン・コミッションは昨年にも活動報告のレポートを発表し、この領域に関する変化が加速していることや、またその重要性も訴えてきた。

 こうした委員会の活動に対し、これまで環境保全や気候変動問題の意識変容に取り組んできたエクストリームEは「我々も文化的および行動の変化を促進することを目指すスポーツ・フォー・パーパスのシリーズであり、ポジティブな行動を促すというシリーズ創設精神をサポートするもの」とし、これに賛同の意を表明。今回改めて「他の方法ではこの機会を得ることができない可能性がある人々、とくに女性、少数民族、または社会経済的背景が低い人々に応募を奨励すること」を目的とし、次世代の機械工学やエンジニアリングの才能を後押しするプロジェクトを創設した。

 そのX44を筆頭に、現在のチームはシリーズ全体の参加者数を減らすため、それぞれ5名の登録メカニックまたはエンジニアに活動が制限されている状況だが、このレーシング・フォー・オールでは世界で最も急進的な電動モータースポーツに参加する機会を提供すべく、候補者は6人目のメンバーとして各チームに参加し、実践的な経験を積むことが可能となる。

 このポジションはプロのモータースポーツ経験が1年未満の対象者に開かれ、プロのレースチームの一員になるため必要なことを正確に学び、新世代の才能に対し競争の激しい業界でのキャリアステップ、その第一歩を提供することが狙いとなる。

「ハミルトン・コミッションの調査結果からも、僕らの業界はとくに過小評価されたバックグラウンドを持つ人々にとって、参入するのが難しい場所であることを知っている。そのためレーシング・フォー・オールのプログラムが、次世代に真の機会を生み出すことが非常に重要なんだ」と語ったX44代表のハミルトン。

電動オフロード・シリーズ『エクストリームE』として、次世代タレントを育成する“レーシング・フォー・オール”のイニシアチブを立ち上げると発表した
「このプログラムが次世代に真の機会を生み出すことが非常に重要」と語ったルイス・ハミルトン

■F1でハミルトンのチームメイトを務めたロズベルグとバトンも賛同コメント

「最初にアレハンドロ(アガグCEO)やエクストリームEのチームとプログラムを作成するというアイデアについて話し合ったとき、僕らは皆、それが真の変化に繋がるものでなければならないことに同意した。このレーシング・フォー・オールはまさにそれを実現していると信じている。このプログラムがパドック全体で採用されるのを見るのがとても楽しみだし、最初の候補グループが何を達成し続けるか、本当にワクワクするよ」

 そのハミルトンと課題意識を共有したアガグCEOは「我々もハミルトン・コミッションの調査結果を全面的に支持しており、チームと協力して将来の優秀なエンジニアやメカニックに明確な道筋を提供したい」と意欲を示した。

「このレーシング・フォー・オールの目標は、人種、性別、社会的経済的地位などの要因に関係なく、次世代のレースメカニックやエンジニアが、モータースポーツの最高レベルに到達できるよう包括的な考え方と幅広い採用パイプラインを浸透させることだ」と続けたアガグ。「もちろん、特定のコミュニティに存在する障壁を減らすことを含めてね」

 こうしたシリーズからのアナウンスに際し、かつてF1でチームメイトを務めた2016年のワールドチャンピオン、ニコ・ロズベルグも「これこそが、シリーズに参加する主な魅力だ」と賛同するコメントを寄せた。

「環境や社会問題への取り組みに続き、モータースポーツへの参入障壁を取り除くことを目的とした新たな進歩的イニシアチブが実を結ぶことに興奮しているよ。さまざまな経験や背景、見解とスキルを活かしたスポーツでもあるし、より多様な才能をチームに迎えることで、僕ら全員が恩恵を受けることができるからね」と、シリーズではロズベルグXレーシングを率いて初代チャンピオンも獲得したロズベルグ。

 同じく、2009年のF1ワールドチャンピオンでJBXEを創設したジェンソン・バトンも「長年この世界に携わってきた僕としても、モータースポーツとエンジニアリングにおける平等の推進がいかに重要であるかを、直接目の当たりにしてきた」と、プログラムの意義を認める。

「シリーズが、この問題をそのような優先事項としているのを見るのは励みになるね。性別、人種、背景に関係なく誰もが参加できるべきであり、このレーシング・フォー・オールがこれを標準にするための大きな一歩となるはずさ」

 すでに、今季からシリーズ参入を果たしたNEOMマクラーレンXEチームなどは、前戦イタリア・サルディニアのダブルヘッダーで4名の女子学生アンバサダーを招待するなど、STEM科目を専攻するエンジニア候補生を採用し、今後は各チームもシーズン3に向けて本格的なプロセスを積極展開していくことになる。

 また、2022年第4戦のチリに向け南米上陸を果たした一向だが、ハミルトン率いるX44は同イベントを前に世界中の温室効果ガスと排出量を削減することを目的とした炭素クレジット企業“Vida Carbon(ヴィダ・カーボン)”をタイトルスポンサーに迎えると発表。同戦より新たに『X44ヴィダ・カーボン・レーシング』のエントリー名で戦うこととなった。

かつては“仇敵”としてF1を戦ったニコ・ロズベルグも「新たな進歩的イニシアチブが実を結ぶことに興奮している」と賛同の意を示した
ジェンソン・バトンも「シリーズがこの問題を、そのような優先事項としているのを見るのは励みになる」と語った

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