ドル円が24年ぶり円安水準144円台に−−投資家なら知っておきたいインフレ関連の経済指標

私たちの生活でも物価上昇=インフレにより家計の負担が増えたり、為替が円安にうごいていることが連日ニュースで報道されたりしていますよね。9月6日(火)に1998年以来となる24年ぶりの円安水準で141円台をつけたかと思うと、翌7日(水)にはさらに144円台まで円安が進行。

TradingViewより

この急速な円安の大きな要因となっているのが、日米の金利差です。今年FRB(米連邦準備制度理事会)による利上げが始まりましたが、日本では金融緩和が継続しており、低金利が続いています。

一般的に金利が高い国の通貨は、金利の低い国より上昇しやすいといえます。日本円でお金を預けていても利益が少ないので金利の高いアメリカで資金運用する、という需要が高まるので、日本円を売ってドルを買う動きが強まる−−つまり、ドル高円安になるわけです。

今後のドル円の動きを考える上でも、日米の政策を知っておくことは重要です。

日銀黒田総裁は金融緩和継続のスタンスですので、それが変更となるのかが焦点ですが、今回は特に注目される米国の利上げがどうなっていくのか、そのために見ておくべき経済指標についてお伝えします。


利上げ判断の材料となる「雇用統計」と「CPI」

FRBは今年3月FOMCで利上げをスタートし、0.25%、0.50%、0.75%、0.75%と次第に利上げ幅を拡大しながら4会合連続で利上げを決定しました。足元では8月26日(金)にジャクソンホール会議のパウエルFRB議長講演にて、インフレ抑制対策をやり遂げるまで金融引き締めを続けるとの姿勢を明確にしたことで米市場は下落に転じました。

9月のFOMCでは0.75%の利上げが折り込まれているようですが、FOMCで利上げをどうするのかを判断する材料として、パウエルFRB議長は「雇用統計」と「CPI」を挙げています。この2つの経済指標は最低限おさえておきたいところです。

雇用統計

雇用統計とはアメリカの労働省が毎月発表する、米国の雇用情勢を調べた景気関連の経済指標のことです。原則毎月第1金曜日、夏時間では日本時間の午後9時半、冬時間では日本時間の午後10時半に発表されます。アメリカでは雇用が重視されているので、とても注目度が高い経済指標といえます。

雇用統計では、失業率、非農業部門就業者数、建設業就業者数、製造業就業者数、小売業就業者数、金融機関就業者数、週労働時間、平均時給などの10数項目の数字が発表されます。注目していただきたいのは、非農業部門雇用者数と失業率、そして平均時給の伸び率です。

非農業部門雇用者数は、非農業部門に属する事業所の給与支払い帳簿を基に集計されたもので、簡単にいうと農業以外の仕事をしている雇用者の数の移り変わりです。全米の約1/3を網羅していると言われており、農業に従事している人はあまり転職しないのでは……ということで省かれているようです。多い方が景気が良いと判断されます。

失業率は、失業者を労働力人口(失業者と就業者の合計)で割ったもので約6万の世帯が調査対象となっています。5%でほぼ完全雇用といわれており、低ければ低いほど良いと判断できます。そして最近は5%より低い状況が続いています。

平均時給は、非農業部門雇用者の1時間当たりの平均賃金です。非農業部門雇用者数や失業率、時給の伸び率は事前に予想が出ます。そして、その予想より良かったか悪かったかが焦点となります。

通常時は、予想より悪い結果だった場合は「アメリカの景気が思ったより成長してないからアメリカ株とかドルとか売っておこう」と株安につながりがちです。ただ、足元では景気が良いと利上げにつながるため、予想より良い結果の時に利上げ懸念から株安に繋がるという現象が起きていますのでご注意ください。

雇用統計前はそれを見極めたいとの考えから様子見ムードになることも多く、雇用統計発表後は為替などが急激に動くことも多いので、ポジションは気をつけた方がよいでしょう。機会があればドル円などのチャートをぜひ見てみてください。

直近9月2日(金)に発表された8月米雇用統計は、下記の通り概ね市場予想と大きくは変わらなく、雇用の堅調さを示す結果となりました。

・非農業部門雇用者数:予想30.0万人増→31.5万人増
・失業率:予想3.5%→結果3.7%
・平均時給:[前月比]予想0.4%増→結果0.3%増、[前年比]予想5.3%増→結果5.2%増

FRBが金融引き締めにしっかり取り組んでいく姿勢を示すなか、それを変えるような結果ではなかったことから、リスクオフの流れが継続したようです。

CPI

CPI(Consumer Price Index)は消費者物価指数です。衣料や食料品など、約200項目の品目の価格の変化を調査して指数化したものとなっており、世帯が実際に購入している製品や使っているサービスの価格が平均的にどう変動しているのかを測定した指数です。原則毎月15日前後、夏時間では日本時間の午後9時半、冬時間では日本時間の午後10時半に発表されます。

買い手側である消費者が購入した、モノやサービスなどの物価の動きがわかるため、米国国民の生活水準を把握できる経済指標といえます。消費が促進されていると物価が上昇(値上げしても売れる)し、消費が抑制されていると物価が下がる(値下げしないと売れない)傾向にあるため、インフレ率を分析するための最重要指標で、CPIの上昇はインフレ傾向にあるといえます。

7月のCPIは前年同月比8.5%上昇し、予想の8.7%を下回りました。変動の大きいエネルギーと食料品を除いたコア指数は同5.9%上昇とこちらも予想を下回る結果となっています。インフレ率が依然高水準ではあるものの、インフレのピークアウトを感じさせる内容だったといえます。

今月は雇用統計はもう発表されましたので、9月13日(火)日本時間の午後9時半に発表される8月米CPIと、9月20日(水)、21日(木)に開催されるFOMCに注目です。

9月5日週「相場の値動き」おさらい

また為替市場が大きく動きましたね。

日銀が9月7日(水)に買いオペの増額(国債の買付額を増やした)によって、日本の金利の低下が見込まれ、日米金利差から円安進行がさらに進み144円台に突入しました。

ただ9日(金)の黒田日銀総裁の円安けん制発言を受けてドル円は急落、執筆時の9日午後3時現在は142円台まで落ちています。

国内では日本郵船の長沢社長が9月6日(火)の日本経済新聞にて、2022年末に向けてリセッション(景気後退)が避けられないと言う考えを取材で話しており、コンテナ船の狂乱も今年いっぱいで平時に戻ると述べました。世界経済が今後失速して高騰する新造船の価格も下落する可能性を示唆、発注についても慎重にみていくと投資を抑える考えであることが明らかになりました。

リセッションというと教科書的には株価が下落しますので、そのような懸念があるということは覚えておきましょう。ただ今のところ、内閣府が8月15日(月)に発表した4-6月期の国内総生産(GDP)速報値もプラス成長で、企業決算も市場予想より良い状況です。

9月9日(金)の日経平均は前日比149円47銭高の2万8 , 214円75銭と続伸。前週末9月2日(金)の日経平均は2万7,650円84銭でしたので、週間では563円91銭の上昇となりました。

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