米ドル高・円安下からの急な円高−−FXでの大損は何が「間違い」だったのか?

2022年3月から急ピッチで展開した米ドル高・円安は、2002年に記録した135円を超えると、1998年以来24年ぶりの歴史的な円安となりました。しかし、7月末からの1週間で、米ドル/円は一時130円割れ近くまで急落しました。歴史的円安局面が初めて大きく動揺したのがこの一週間だったのではないでしょうか。

歴史的円安局面で、米ドルなど外貨への投資を始めたという方も少なくないと見られますが、そういった方々からすると、かなり不安を感じた可能性はあるでしょう。実際に、ネット上では「1,000万円以上の利益があっという間に無くなっちゃって唖然」のような、損失を出している方のコメントが目立ちました。

こんな時こそ「間違いだらけのFXトレード」、この「FXトレード」を「外貨運用」に換えて、「間違いだらけの外貨運用」でもいいと思いますが、いずれにしてもこの連載の出番でしょう。今回は、なぜ円安から円高への急転換が起こったのか、このような局面ではどういった投資戦略が必要なのかについて、述べてみたいと思います。


「歴史的円安」が動揺した1週間

米ドル/円は、7月に入ると一段と上昇、一時は140円の大台に急接近しました。ところが、7月末のFOMC(米連邦公開市場委員会)、米国の金融政策を決める会合が、2回連続で0.75%といった大幅な利上げを決定したにもかかわらず、その直後から一転して米ドル急落に向かうとところとなったのです(図表1参照)。

なぜ米国が大幅に金利を引き上げたにもかかわらず、その後は逆に米ドル急落が始まったのか、素朴な疑問を感じた方は少なくなかったでしょう。それに対する一つの回答は、既にそれまで米ドル高が長く続いた結果、米ドルが「上がり過ぎ」ていた−−別な言い方をすると「割高」になっていたからということでしょう。

上述のように、一時140円近くまでの米ドル高・円安となったのは、1998年以来、24年ぶりのことでした。その意味では、歴史的円安と言っても良かったでしょう。ただし、そんな「歴史的円安」の裏返しで米ドルなど外貨が大幅に上昇すると、割高になるのも当然のこと。

例えば、米ドル/円を過去5年の平均値である5年MA(移動平均線)からのかい離率で見ると、米ドル/円は、5年MAから概ねプラスマイナス20%の範囲を中心に上下動してきました(図表2参照)。130円を大きく超えてきた今回の米ドル高・円安は、5年MAを20%以上も上回る動きであり、米ドル割高懸念がかなり強くなっていたと言えるでしょう。

投資において、このような「割高」か「割安」かの見極めは重要です。なぜなら、割高か割安かによって下落リスクが全く違ったものになるから。文字通り、「割安」な場合は下落リスクが限られるのに対し、「割高」な場合は潜在的に大きな下落リスクを抱えているでしょう。その結果、両者は損失リスクに決定的な差が出てくることになります。

割高局面での米ドル買いの戦略

以上からすると、最近のように米ドル高・円安が長く続いたことで、結果的に米ドル割高となった局面での米ドル買いで最も重要なのは、「許容出来る損失額」の自覚ということになるでしょう。簡単な言い方をすると、下落リスクがほとんど無限と言ってもいいほど大きい割高局面での米ドル買いにおいてこそ、いくらまでの損失は我慢できるかの自覚が必要だということです。そして、それを踏まえた上で、割高局面での米ドル買いの戦略は、主に以下の3つが課題になるでしょう。

1つ目は、米ドル買い規模の抑制。平たく言えば、「ここまでなら損しても許容できる」規模にとどめるということ。これは、割安局面でまとまった規模の米ドル買いを長期保有の目的で行うこととは大きく異なります。

2つ目の課題は、損失を最低限にとどめるべく、ストップロス(損切り)注文を付けるということ。米ドル買いの場合のストップロスは、逆指し値の米ドル注文となります。ではその設定をどう決めるかと言えば、それこそまさに「許容出来る損失額」から逆算するのが基本になるでしょう。

そして3つ目は、小まめな利益確定です。割高修正が本格化すると、米ドルも急落する可能性が出てきます。今回、7月末からの約1週間で起こった米ドル急落は、まさにその結果だった可能性があるでしょう。

そういった中では、せっかくの含み益もあっという間に消滅する危険があります。回避するためには、小まめに利益を確定する、別な言い方をすると含み益のままにしておかないといったことが必要になるでしょう。この点もまた、割安局面で米ドルを買い、それを長期で保有する方法とは全く異なることとして理解する必要があるでしょう。

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