【#あちこちのすずさん】出征の息子案じ涙…祖母の姿に「母の愛」思う

 戦時下の日常を生きる女性を描いたアニメ映画「この世界の片隅に」(2016年)の主人公、すずさんのような人たちを探し、つなげていく「#あちこちのすずさん」キャンペーン。読者から寄せられた戦争体験のエピソードを、ことしも紹介していきます。

(女性・89歳)

 8月、終戦の日が来るたびに思い出す忘れられない光景がある。戦争中で、私は10歳くらいだったと思う。同居していた祖母が時々、部屋に入っては出て来ないことがあった。

 不思議に思ってそっとふすまを開けて、のぞいてみた。祖母は、普段はしまってある末の息子(私にとっては叔父)の写真を手にして、声を出さず目頭を押さえ、身を震わせていた。

 叔父は出征していた。写真に向かって声を押し殺して何かボソボソとささやく祖母の言葉は聞き取れなかった。でも私の中では、後に読んだ野口英世の伝記に出てくる英世の母の手紙の一節と重なって記憶されている。

 その言葉とは「早く帰ってきて、早く帰ってきて」というものだ。幸いなことに叔父は無事に生還した。

 戦争が終わってまもなく母が亡くなったこともあり、私は母の愛情に特別な思いがある。だから写真をなでながらわが子を思う祖母の姿を思うたび、親子を引き裂く戦争というものに心が痛んだ。これも戦争が残した傷痕といえるのではないだろうか、と思うのだ。

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