心に響く有明海の絶景、カーブの揺れ… 22日運行終了「特急かもめ」の車窓から

白いかもめの車窓から見えた有明海と、普賢岳など雲仙の山並み。乗車した小さな子どもも目を奪われていた=諫早市内

 特急かもめが長崎を走るようになって61年。旅行や仕事、通勤通学など多くの人の足となり、思い出をつくり、愛されてきた。西九州新幹線開業に伴い22日に運行を終えるのを前に、乗車取材した。
 14日午後1時過ぎ、JR長崎駅2階ホームに上がると、すでに博多行きの“白いかもめ”が待っていた。そばにはカメラを手にした数人の観光客。隣の一段高いホームには真新しいかもめがいる。
 先頭車両の自由席、進行方向右側に座り出発。そのうち後ろから、かわいらしい声が聞こえてきた。「あっ、僕のうちが見える」。4歳の男の子。お母さんと一緒にお父さんの実家がある博多まで遊びに行くところだった。
 諫早の市街地を抜けると、車窓に田園風景を望み、遠くには雲仙・普賢岳の姿。次第にカーブが増えていくのは、この路線の特徴だ。白いかもめは車体を傾けて減速を抑える「振り子式」。激しい揺れも「これが醍醐味(だいごみ)」と体に染み込ませた。
 「海だっ」。男の子の声が弾む。車窓一面に有明海が広がった。青空に白い雲、光が反射し水面(みなも)が輝く。小長井町辺りまで来ると、とがった普賢岳などの山容がくっきりとしてきた。急いでカメラのシャッターを切る。佐賀県に入ると、車窓から見える色が青から徐々に変わり、雄大な佐賀平野と山々の深緑が強くなった。
 新幹線開業を間近にした隣県の空気を感じたくて、佐賀駅で下車した。「ありがとう特急かもめ」「ようこそ新幹線かもめ」-。駅舎内にはポスターが張られ、開業を祝う動画も流れていた。ただ、駅を一歩出ると、それほど歓迎ムードは感じられなかった。
 博多と結ぶ大動脈は23日から一部が新幹線に移り、有明海沿いの肥前山口-諫早は並行在来線となる。住民は何を思うのか。普通列車で来た道を戻り、同県鹿島市の肥前浜駅で降りた。ジャズが響く駅直結の地酒バー。マスターの男性は言う。「地域が寂れるといけないから声を上げて元気にやっていかないとね」
 隣の肥前鹿島駅から、長崎行きの白いかもめに乗車。午後6時を過ぎ、日が落ち始める中、干満差が日本一とされる海がまた違う表情を見せてくれた。干潟が遠くに伸びる。無数に広がる養殖ノリの支柱群。水色の空に薄いオレンジが混ざっていく。「この沿線はいつどこを切り取っても絵になる」。肥前浜駅で出会った、高齢の写真愛好家のつぶやきに納得。毎日が唯一無二の景色に多くの人が引きつけられ、心に響くのだろう。
 長崎駅には、まだ新幹線かもめがいた。開業後、新旧かもめがこの駅でそろうことはない、そう思い、シャッターを切る。しばらく眺めていると、新幹線が動き出した。白いかもめから漏れる落ち着いた明かりとは対照的に、新幹線の車窓は煌々(こうこう)と光っていた。


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