UAEサッカーに今、何が起きているのか?日本代表にも影響必至な「若手外国籍選手の大量獲得」とは

先日、ある1人の若手選手の移籍がブラジル国内で大きな話題となった。

彼の名はレナン・ダ・シウヴァ(20)。2019年のU-17W杯で優勝したブラジル代表に名を連ねた184cmと長身で左利きのCBだ。

将来を嘱望された彼だったが、今年7月に無免許・飲酒運転で自動車を運転し、男性を跳ねて死亡させた容疑でブラジルの警察に逮捕されていた。

当然所属先のパルメイラスからも解雇。キャリアが暗転するかと思われた彼が、1ヶ月もしないうちにUAE1部リーグの名門、シャバブ・アル・アハリ・ドバイへ加入したのだ。

「罪を償うのではなく、国外へ逃げるのか!」とブラジルのフットボールファンたちは声を荒げ、ネット上は騒然となった。

だが裁判ではレナン側が遺族へ多額の賠償金を支払ったことで遺族側が態度を軟化し、国外へ移籍することが認められたという(もちろん今後レナンは4ヶ月に一度ブラジルへ帰国し、裁判所へ出廷しなければならない制約がある)。

ここで引っ掛かるのは「誰が保釈金を支払ったのか?」ということ。もちろんそれが誰かはわからない。ただ、UAEのクラブはこの年代の若手外国籍選手を喉からでも手にしたい事情があるのだ。

UAEは7つの首長国からなる連邦制国家だ。人口は約1000万人いるが、そのうち「UAE人」と言われる人々は約10%弱しかおらず、残りの人々は移民としてUAEにやってきた人々である。

移民を含めたUAE人以外の人々が市民権を獲得するのは非常に困難なことで知られている一方、その豊かな石油資源からもたらされる経済的利益に支えられ、移民の定住率は世界的に見ても高いと言われている。

例えばかつてUAE代表のエースとして日本代表を苦しめたMFオマル・アブドゥラフマン(30)は、サウジアラビアで生まれ育ったイエメン系の移民である。

※近年は度重なる負傷に苦しんでいるオマル。今シーズンは心機一転、アル・ワスルFCへ移籍。悩める天才は復活なるか。

さて、UAEリーグにおける自国選手は「UAE出身の者」「UAEのパスポートを持っている者(※主に移民)」「UAEに住んでいる女性の子供(※主に移民)」と定義されているが、その他に海外にルーツを持つ選手で、UAEでの定住を目指すプレーヤーに適応される「定住者枠」が別として存在する。

定住者枠は過去3年以上のUAE在住要件を満たした外国籍選手に適応され、主に言語が同じエジプトやモロッコを中心としたアラブ圏の選手に適応されていた。

しかし、2019年に定住者枠の要件が改訂され、「3年以上のUAE在住」要件が撤廃された。これはつまり、まったくUAEに来たことのない海外の外国人選手を3年契約で獲得し、「定住者枠」として登録することが可能になったということだ。

以降、UAEのクラブがブラジルを中心とする南米地区の若手選手をこぞって獲得する事態が起きた。UAEリーグの外国籍枠は試合に5人のみ登録可能なほかは特に保有上限を設けていないため、現在に至るまで外国籍選手の「超青田買い」が起きている。

例えばシャバブ・アル・アハリに「定住者枠」として在籍中のMFユーリ・セザール(22)は、2021年1月にブラジルの名門CRフラメンゴから移籍金600万ドル(現在のレートで約8億5500万円)で移籍してきた。

王者アル・アインFCには2019年にインテルナシオナウで試合に出場していたブラジル人DFエリキ・メンデス(21)が在籍中。

アル・ナスルSCにはボタフォゴの下部組織出身の大型CBグラウベル(22)が、アル・シャールジャFC にはU-17ブラジル代表MFルアンジーニョ(22)とクルゼイロの下部組織で活躍していたブラジル人FWカイオ・ローザ(21)が、アル・ワフダFCには2020年にFCポルトの下部組織から獲得したDFルベン・カネド(20)が在籍している。

また未遂で終わったが、かつてアル・アインはユヴェントスの下部組織でゴールを量産していたベナン代表FWアンジェル・チボゾ(19)を定住者枠選手として獲得に動いたことも。

その他のクラブも、アルゼンチンやセルビア、ガーナ、ナイジェリアなど世界中から多くの選手が在籍しており、現在1部、2部リーグ合わせて約100名近くの若手外国籍選手が在籍していると言われている。

※フラメンゴからアハリへ移籍したユーリ。ブラジルでは「フラメンゴ・ユース史上でもトップクラスのタレント」と評価されていたという。

※FCポルトからワフダへ加入したルベン。FCポルトのU-19チーム時代にはポルトガル代表FWファビオ・シルバ(20/RSCアンデルレヒト)と共にプレーした。

この流れに関して、当然国内の識者から批判の声が挙がった一方、「長期的なスパンで見れば、代表強化に繋がる」と好意的な声も目立つ。

現在のFIFAの規定では、5年以上の継続居住歴を満たしていれば国籍変更が可能であり、現在のUAE代表には前述の条件を満たしてアルゼンチンから帰化したFWセバスティアン・タグリアブエ(37)、それぞれブラジルから帰化したMFファビオ・リマ(29)、FWカイオ・カネド(32)らが主力として活躍中。

彼らに加えて「定住者枠」の選手達が今後5年以上継続してリーグでプレーすれば、UAEへ帰化し外国籍枠に関係なくプレーできる。将来的にUAE代表が全員海外出身のプレーヤーになることだってありうるのだ。

※現時点での「定住者枠」ベストイレブン。UAEリーグは外国籍のGKを認めていないのだが、GKがいないと寂しいのでU-20代表の守護神アブドゥラ・アル=ハンマディを選出した。

  • GK アブドゥラ・アル=ハンマディ(20/UAE/アル・ジャジーラ)
  • DF アブドゥラズィーズ・ムフタウ・オウォラビ(22/ナイジェリア/アル・ワスルFC)
  • DF レナン・ダ・シウヴァ(20/ブラジル/シャバブ・アル・アハリ・ドバイ)
  • DF マクス・オルテラード(21/パラグアイ/アル・ナスルSC)
  • DF ルベン・カネド(20/ポルトガル/アル・ワフダFC)
  • MF アンドリヤ・ラドヴァノヴィッチ(21/セルビア/アル・アインFC)
  • MF シニシャ・ヨラヴィッチ(20/セルビア/アル・アラビ)
  • MF タファヅワ・ドリワヨ(21/ジンバブエ/ディーヴァ・アル・フジャイラ)
  • MF ユーリ・セザール(22/ブラジル/シャバブ・アル・アハリ・ドバイ)
  • FW イゴール・ジェズス(21/ブラジル/シャバブ・アル・アハリ・ドバイ)
  • FW カイオ・ローザ(21/ブラジル/アル・シャールジャ)

もちろん、現在のUAEフットボール界は自国タレントの育成を諦めたわけではない。ほぼ全てのクラブがアカデミーを保有しているし、かつてセビージャや北京国安などでプレーした元マリ代表FWフレデリック・カヌーテ(44)がドバイに設立した「カヌーテ・フットボール・アカデミー」などクラブ以外でのスクールの設立も相次いでいる。

ただそれでも海外選手を上回るタレントの継続的な輩出は難しいと言わざるをえない。ロンドン五輪に出場したオマルやFWアーメド・ハリル、アリー・マブフート(ともに31)ら「黄金世代」の後のタレントは育たず、その低迷が定住者枠の緩和に繋がったと考えられても仕方がない。それほど現在のUAEサッカー界は強い危機感を持っているのだ。

【関連記事】”16年前”の日本代表vsアメリカ代表。今も現役を続ける6名のスゴい選手たち

話を戻すが、今回シャバブ・アル・アハリ・ドバイに加入したDFレナン・ダ・シルヴァは現地メディアから「居住者枠史上最高のタレント」と言われている。

彼や他の外国籍選手達が日本代表の前に立ちはだかるのはまだ先の話になるが、今のうちに耳に入れておいても良い話であるのは確かだろう。アジアサッカー界に今、大きな波が押し寄せようとしている。

© 株式会社ファッションニュース通信社