家族なのに…会えずに最期? パートナーシップ宣誓制度、県内37自治体導入も「埼玉県」はまだ 当事者らが署名呼び掛け

パートナーシップ宣誓制度の導入を求める署名サイト

 埼玉県内の市町村で、性的少数者(LGBTQなど)のパートナー関係を公的に認める「パートナーシップ宣誓制度」の導入が進む中、県の制度導入を求める署名活動がネット上で広がりを見せている。発起人はトランスジェンダー男性のパートナー汐恩(しおん)さんと共に暮らす竹乃娘(たけのこ)さん。持病の悪化で緊急搬送された際、汐恩さんに病院から容体が説明されなかった経験を踏まえ、竹乃娘さんは「別の市町村に搬送されることもあるし、隣町で倒れることもあるかもしれない。最期は会えないで終わるのかもと考えると怖い」と不安な胸の内を語る。

 署名は「本当の彩の国へ」を掲げて、短文投稿サイト「ツイッター(@tAkEnOkO_GaMeS)などの交流サイト(SNS)で呼びかけ、署名サイト「Change.org(チェンジ・ドット・オーグ)」で賛同を募っている。7月27日から開始し、今月24日時点で363人の署名が集まった。千人を目標に、県議会12月定例会の陳情書と知事宛ての要望書を提出する予定だ。

 2人は宣誓制度が導入されていない自治体に2017年ごろから共に暮らしている。竹乃娘さんは持病のため数度、緊急搬送された経験があり、新型コロナウイルスに感染すれば重症化リスクも高い。19年に緊急搬送され入院したが、汐恩さんは竹乃娘さんと15日間面会できず、医師から容体の説明も受けられなかった。汐恩さんは「『パートナーだ』と説明しても『家族じゃないから説明できない、家族を呼んで』の一点張りだった」と当時を振り返る。病院に駆け付けた竹乃娘さんの母の「汐恩も家族なのにね」の言葉に、2人は涙が止まらなかった。

 県内では37市町(9月時点)がパートナーシップ宣誓制度を導入しており、「県性の多様性を尊重した社会づくり条例」が7月に施行された。一方、大野元裕知事は県独自の制度整備をせず、自治体の理解増進や支援に努める方針を示している。関東では栃木県が9月からパートナーシップ宣誓制度の導入を始めた。茨城県、栃木県ではすでに導入されており、東京都も11月から運用を開始する。

 「北関東や東京で導入できるのに、なぜ埼玉ではできないのか」。周囲の人の理解が進んできていると実感するだけに、県の方針には落胆を隠せない。2人を知る知人からは「(県条例が)施行されたから2人もパートナーシップ制度を利用できていると思っていた」という声もあったという。

 竹乃娘さんは市町村や病院ごとに制度や対応に差があることも問題として指摘する。「病院や先生個人にも(LGBTQに対する)感情があり、県の制度で病院側の説明責任があるとすることが必要」と訴える。「住んでいる市町村で制度整備が進んでも、病院から『別の市の制度だから』と拒否されたらそれで終わり」と不安な心の内を明かした。

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 署名は専用サイト(https://change.org/LGBTSaitama)へ。

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