「宇佐美貴史はすごかった」 広島FWベン・カリファ、U-17W杯での優勝と日本戦の思い出

現在、明治安田生命J1リーグで快進撃を見せているサンフレッチェ広島。7月から公式戦8連勝を飾るなどし、暫定的ながら首位に立ったこともあった。

そのチームへ今季途中に加入したのが、FWナッシム・ベン・カリファ。すぐさま前線の一角に定着し、8月20日のガンバ大阪戦ではハットトリックも達成した。

Qolyでは今回、スイス代表歴を持つ30歳のストライカーに独占インタビューを敢行!

前編では、2009年にエースとしてスイスを優勝に導いたU-17ワールドカップや、その時対戦した日本代表、さらには近年成長著しいスイス代表の秘密などを聞いた。

(取材日:2022年9月1日)

「風の王の子供」

――まずは発音を教えてください!

アラビア語の名前で「Nassim Ben Khalifa」。“KH”は喉をかすらせる音です。

ベン・カリファは「王の子供」という意味で、Nassimの方は「風」という意味があります。

――チュニジアの移民はスイスに多いんですか?

スイスはたくさんの国から移民で来ている方がいます。ただチュニジアがルーツという方はそんなに多くはありません。

多くはアルバニア、コソボ、セルビア、ポルトガルやイタリアなどですね。小さな国ですが、そのような多様性があるんです。あらゆる言語が飛び交っている場所ですね。

私が生まれたのはチュニジアですが、育てられたのもスイスですし、学んだのもスイスです。全てはスイスで培われたものですね。

――そのような環境で育って、憧れていた選手は?

私はジネディーヌ・ジダンとともに育ちました。彼は誰にとっても本当のレジェンドです。

誰か一人の選手を常に好きでいたわけではなく、その時々でいろいろな選手を見てきました。今ならカリム・ベンゼマが好きですね。あとはアーリング・ハーランド、そしてモハメド・サラーも好きです。

また、選手だけに限らずチーム全体も見ます。ディフェンダーがどうしているのか、ストライカーはどうしているのか。サイドバックのポジションも含めて常に見ていますね。

高いレベルのサッカーを見ること自体が好きなんです。だからいろいろなところを見ています。

宇佐美貴史は「本当にすごかった」

――ベン・カリファ選手といえば2009年のU-17W杯です。4ゴールを決め、スイス代表は優勝を果たしました。

すごくいい経験でした。日本代表と対戦して4-3で勝ったというのも、今となってはいい思い出です。

スイスで育ち、スイスで学んだ自分が、会場となったナイジェリアで全く違う国、全く違う環境を経験しました。

全く違う天候や会場、違う街、違う人々の中でとても厳しいものでしたが、我々はいいチーム、いいグループを持っていました。

スイスという国にとってもあのような国際大会で優勝できたのは初めてのことだったので、すごく大きなものでした。

そのようなことも含めて、本当にいい思い出として残っています。

――大会中は宇佐美貴史選手のことがチーム内で話題になっていたとか?

本当にすごい選手でしたよ。とても若い時でしたが、本当にすごかった。

ただ僕が日本に来てからは彼が怪我をしている状況なので、早くそれを治して戻ってきてほしいです。そしてピッチの上で戦ってみたいですね。

日本人選手についても本当に皆が頑張ることができて、すごいチームでした。U-17W杯のときには勝てましたが、正直に言えばスイスが負けていてもおかしくない内容でした。

――U-17W杯のチームメイトには、グラニト・ジャカ(現アーセナル)やリカルド・ロドリゲス(現トリノ)、ハリス・セフェロヴィッチ(現ガラタサライ)など世界的なスター選手がいましたね。

もちろん御存知の通り素晴らしい選手たちです。見ていて楽しい存在ですし、それは今も同じです。リカルド・ロドリゲス選手は当時から全くプレースタイルが変わりませんね。

逆にグラニト・ジャカ選手は左ウィングでした。今は中盤の守備的な位置をやっていますね。彼は本当に素晴らしい左足を持っています。それぞれ違っていて面白いですね。

この二人に共通して言えることは、本当に賢い選手だということです。若い頃はフィジカルやスピードで活躍できる部分がありますが、彼らはボールを持つと賢くて、とてもいいゲームコントロールをします。

本当に賢い選手なんですよね。それを高いレベルでできているのは本当にすごいことです。

――その頃スイス代表は急速に強くなりましたね。

我々はビッグネームの選手が出て強くなったわけではなくて、チームの安定性の高まりがあったんです。常にW杯やEUROの本大会に参加できるようになりました。

スイスというチームの強さは、常にいいチームスピリットを持っていることです。個人の特別な才能に頼るのではなく、チームが団結し、全体で守備をして、全体で攻撃をする。いい守備をして、賢くボールを持つ。そのような安定性や強さがあります。

その前もいいチームでしたが、2006年W杯あたりからスイスはいい道を歩んで、常にW杯やEUROでプレーできるようになったのです。

「寿司の初体験」は長谷部誠とともに

――ベン・カリファ選手は2010年夏、ヴォルフスブルクへ移籍しました。そこで長谷部誠選手とプレーしていますね。

とてもいい人ですよ。素晴らしい男です。彼にはよくご飯に連れて行ってもらいました。初めて寿司を食べさせてもらいました。

すごくフレンドリーで、ナイスガイです。トレーニングでも常に手本になるような存在でしたね。常に集中していてリーダーシップをとってくれる。

自分にとっても、彼との日々はすごくいい思い出ですね。

――その後はスイスリーグに戻り再び活躍されました。スイスはどんなスタイルのチームが多いのですか?

スイスはこの10年でプレースタイルが変わってきたと思います。昔はバーゼルなど数チームがチャンピオンズリーグやヨーロッパリーグで上位を狙える高いレベルを持っていました。

そのようなチームでは、スイスや他の国の代表レベルにある選手たちがプレーしていました。ただ、そこは新型コロナウイルスの影響もあって変わっていったように思います。

クラブは以前のようなお金を持っていませんし、チームの規模もあまり大きいものではなくなりました。

リーグは若手の登竜門というか、クラブにはいい選手を抱えるほどのお金がありませんから、このところは若手のステップアップのための場になっている印象です。

私がプロキャリアを始めたころは、フィジカルに特徴があるリーグでした。そして相手のミスを待つようなカウンター戦術も多かった。とてもフィジカル的なリーグだったと思いますね。ただ、それは変わってきたと思います。

そのフィジカル的なところでいえば、スイスで活躍した選手が特にドイツ・ブンデスリーガやイタリア・セリエAに行くということがありましたね。

――ベン・カリファ選手の古巣グラスホッパーには川辺駿選手と瀬古歩夢選手が、ローザンヌには鈴木冬一選手がいますね。今もチェックはしていますか?

もちろんチェックしています。グラスホッパーはいつも見ていますし、川辺駿選手の活躍も目にしています。すごくいい選手だなという印象です。ローザンヌはグラスホッパーほどではありませんがチェックしていますね。

グラスホッパーは常に見ていますよ。日本に来る前、ビザを待っているときにはスタジアムに行って試合を観戦していました。

スイス代表は「強豪相手にこそ強い」

――スイスは代表チームが今冬のカタールワールドカップに出場します。

もちろん誰が見ても同じように感じると思うのですが、相手チームにとってスイスとの試合は難しいものになるでしょうね。

スイスは今回、ブラジルのような強いチームと対戦します。ただそれはブラジルにとって幸せなことではないでしょう。なぜなら強豪相手にこそスイスはいい戦いをしてきた印象があるからです。

逆に、ちょっと格下の相手になるとあまり良い結果が出ない点もありますけどね。ただいつも強い相手に対してはいい戦いをしていました。とても興味深いワールドカップになりますよ。今大会はチームとして団結できて、いい結果が出せるんじゃないかなと思います。

スイスではメディアや国民からのプレッシャーがあまりないんです。だから気持ちを楽にして戦うことができる。それは大きいなと思いますね。

――ちなみに、ルーツを持っているチュニジア代表についてはどんな思いがありますか?プレーしてみたかったとか…。

私はスイス代表でプレーしているので、チュニジアには入れないですけども(笑)。

3ヶ月前に日本と試合をしていましたね。チュニジアもワールドカップに出場しますが、日本戦を見ても大会に参加するチームにそれほど差はないと思えますね。

1つの試合では何が起こるかわかりません。それはもちろん日本代表についてもそうですね。楽しみなところです。

【動画】”宇佐美貴史はすごかった…”サンフレッチェ広島FWベン・カリファが見た「U-17W杯優勝と、日本代表の記憶」/独占インタビュー前編

なお、後日公開予定の後編では…川村選手に「無職転生」という作品を勧めたことで知られるベンカリファ選手に、「日本アニメや漫画が好きになったキッカケ」などを伺っているぞ。YouTubeのチャンネル登録をしてお待ちを!

© 株式会社ファッションニュース通信社