受け取り方で税金が大きく変わるiDeCo、出口戦略をFPがパターン別に解説

2022年10月から加入要件が緩和され、老後の資産形成手段として関心が高まっている「iDeCo」。iDeCoは積立時、運用時、受取時にそれぞれ税制優遇が受けられますが、受け取り時に関しては正しい知識がないまま手続きを進めると、想定外の税金を支払う羽目になりかねません。

今回は、iDeCoの出口戦略について解説します。


iDeCoを受取るタイミング

まず老齢給付について、iDeCoも企業型DCも取り扱いは基本的には同じです。

iDeCoは60歳になると老齢給付を受給できるようになります。これはあくまでも「老齢給付を受け取る権利」ができるだけなので、実際には60歳から75歳までの間で好きな時に資金の受け取りが可能です。受け取り方は、全額を一気に受け取る「一括型」、複数回に分け年金のような受け取り方をする「分割型」、一部を一括、一部を分割で受け取る「併用型」を選ぶことができます。なお、企業型DCでは会社によっては「併用型」を選択できない場合もあるようです。

2022年の改正で、60歳以降も厚生年金に加入している人、国民年金に任意加入している人は65歳までiDeCoの加入が継続できるようになりました。加入というのは、掛金を拠出しているという意味なので、加入中は老齢給付金の受取はできません。従って60歳以降もiDeCoに継続加入したい人は、老齢給付の受け取りは加入期間終了後となります。これは同時に、老齢給付を受け取った人は加入ができないという意味でもあります。

企業型DCは、会社のルールによって70歳まで加入が可能です。その場合も加入中は老齢給付を受けられません。また定年後に企業型DCのある会社に再就職した場合も、前の会社で企業型DCの老齢給付を受け取っている場合は、企業型DCに加入ができません。

つまり、60歳を境にiDeCoからiDeCo、企業型DCから企業型DCと加入を継続する場合は、老齢給付は受け取れないのです。同時に老齢給付を受け取ってしまうと加入ができなくなります。

しかし、企業型DCに60歳まで加入していて、定年後、雇用延長で働きつつiDeCoへも加入する場合、企業型DCの老齢給付を受け取ってもiDeCoへの加入が可能です。また、60歳までiDeCoに加入していた人が、それ以降企業型DCに加入する場合も、iDeCoの老齢給付は受け取り可能です。iDeCoから企業型DC、企業型DCからiDeCoの場合は、60歳時点で老齢給付を受け取っても加入できます。

少し複雑ですが、これを厚生労働省の担当者は、iDeCoと企業型DCは別々の貯金箱。貯金箱は一度割るとお金が入れられなくなる。つまりiDeCoの貯金箱を割ったら、もう積立できない。企業型DCの貯金箱を割ったら、もう積立できない。割るというのは、老齢給付を受け取るということ、と表現していました。逆に、iDeCoの貯金箱を割っても企業型DCの貯金箱は別物なので積立ができる。企業型DCの貯金箱を割ってもiDeCoは別物なので積立ができる、という訳です。

他にも60歳までの加入期間が10年に満たない場合と60歳以降はじめてiDeCoに加入する場合は、老齢給付の受取開始時期が異なります。前者は60歳までの加入期間に応じて最長65歳まで老齢給付の受取開始時期が延長されますし、後者は加入後5年経過しないと老齢給付が受け取れません。

iDeCoの受け取り方の3つの基本

それでは、実際に受け取る際におさえておきたいポイントをみていきましょう。

(1)iDeCoを一括型で受取る時は、退職金扱い

一般的に退職金というのは、長い期間勤め上げることにより、まとまったお金を受け取ることができます。慰労金という意味合いもあるので、10種類ある所得の中でも特に税金が優遇されています。退職金に対する税の優遇は勤続年数で決まり、20年までは1年あたり40万円、それ以上の期間については1年あたり70万円で控除額を計算します。例えば30年の勤続であれば、退職所得控除は1,500万円(勤続20年までの退職所得控除800万円と20年超30年までの10年にかかる退職所得控除700万円)です。

退職金が退職所得控除内に収まるなら、税金は全くかからず全額が手元に入ります。仮に退職金が2,000万円ならば、超過した500万円が課税所得となりますが、退職金は前述のように優遇されているので、さらに2分の1された上で分離課税となり、この場合だと250万円が課税所得になります。

分離課税というのは、その他の所得とは切り離して税金を計算するという意味です。例えば定年退職が誕生月という会社もあるでしょう。8月生まれであれば、それまでの期間給与収入があります。この収入と退職金を合算してしまうと、税率が高くなってしまうので、他にどんな所得があろうとも退職金は切り離して税金を計算するのです。このケースのように課税所得250万円に対する所得税は152,500円、住民税は25万円となります。(わかりやすいように簡易計算しています)

では、iDeCoの場合の「退職金扱い」とは、具体的にどういうことなのでしょうか? iDeCoは、加入期間を勤続年数と読み替えて退職所得控除を計算します。たとえ、転職を何度繰り返そうとも、企業型DCからiDeCoに資産を移換しようとも、その加入期間は通算されます。

現代社会においては、おなじ会社にずっと勤めるというケースはまれでしょう。すると転職の度に勤続年数がリセットされ、なかなか大きな退職所得控除が受けられないという問題があります。しかし、iDeCoはまさに自分でつくる退職金、早く始めることで加入期間を延ばし大きな退職所得控除を得ることができます。ただし、運用指図者期間は加入期間とは認められないので、経済的な理由などで掛金の拠出が難しい時でも、積立を中断するのではなく掛金を減額させて、積立を継続した方が受け取り時には有利になるのです。

いわゆる専業主婦(第3号被保険者)は掛金を拠出しても控除できる所得がないため、iDeCoに加入するメリットがないと敬遠されることもありますが、仮に月23,000円で30年間、3%で運用できれば、約1,330万円もの資金を非課税で受け取れます。筆者の身近には、奥様に贈る退職金として奥様名義のiDeCoにご主人が掛金拠出をしている方もいらっしゃいます。ご主人に税制メリットはありませんが、奥様への感謝の印として渡したいとおっしゃっています。

(2)iDeCoを分割型で受け取ると公的年金扱い

国民年金と厚生年金から支給される老齢基礎年金と老齢厚生年金は受け取る際、所得税の対象となりますが、そこには「公的年金等控除」という税金のかからない枠が設定されます。65歳未満と以上、またはその他の所得に応じても異なるのですが、一般の収入よりも税金がかかりにくくなるよう配慮されています。

この公的年金等控除がiDeCoを分割で受取る際に利用できます。

例えば、公的年金受取りまでの「つなぎ年金」としてiDeCo300万円を5年間、分割型で受け取るケースを考えてみましょう。合計所得が1,000万円以下の場合、iDeCoの受け取りが年間60万円までは非課税です。60万円以上の場合は、所定の計算式にのっとり課税されます。公的年金を65歳から受取る場合、65歳未満の控除枠は未使用ですから、このような受け取り方は有効です。

分割型で受け取る際は、定期預金や保険商品に資金をすべて切り替えて定額でお金を受け取ることもできますし、運用を継続しながら資金を受け取ることもできます。例えば10年で受け取る場合、投資信託の残高のうち10分の1を解約、翌年は9分の1を解約といった形で取り崩します。こうすると、残りのお金は引き続き非課税で運用ができるので、資産寿命を延ばすことが期待できます。

(3)iDeCoの併用型は2つの控除が適用

併用型の場合、一括部分は退職所得控除が、分割部分は公的年金等控除が適用になります。退職所得控除以上にiDeCoの資金がある場合に併用型を選ぶことがあります。

例えば、加入期間19年だと退職所得控除は760万円です。一方iDeCoの資金が1,060万円あるような場合は、760万円を一括で受け取り、残り300万円を5年間の分割で受け取ります。すると一括部分は退職所得控除内ですから非課税、300万円を5年で分割すると1年あたり60万円となり、前述の通り65歳未満であれば非課税です。

複合的な受け取り時に知っておきたい3つのルール

これまでiDeCo単体を受取る場合の税金についてご説明しましたが、実際は会社の退職金もある方が少なくありません。その場合は、同じ退職所得控除が適用されるという特徴から、受け取り方により税金の計算が異なります。

以下3つのパターンを用いてご説明します。

(1)退職金とiDeCoを同じ年に受取る場合

会社の退職金とiDeCoを同じ年に受取る場合、2つの金額は合算されひとつの「退職金」として計算されます。また退職所得控除の計算では重複している期間が調整されます。

例えば、勤続38年の会社を定年退職し1,800万円の退職金を受け取り、同年10年加入したiDeCoの500万円を受取るケースを考えてみます。この場合、勤続年数38年による退職所得控除は2,060万円、加入期間10年のiDeCoの退職所得控除は400万円です。

同じ年に退職金とiDeCoを一括で受け取ると、2つの金額は合計され2,300万円となりますが、退職所得控除はiDeCoの加入期間が勤続年数と重複するので、その分は2,060万円の退職所得控除に吸収されるため、iDeCoの退職所得控除400万円は消滅します。

このような場合、iDeCoを一括受け取りにすると退職所得控除を超過してしまうので、「併用型」を使います。500万円のうち、退職金だけでは消化しきれない退職所得控除分260万円を一括で受取残り、残りの240万円を5年分割で受取ります。退職金とiDeCoを全額一括で受け取ると、所得税、住民税を合わせて18万円ほどの税金の支払いが生じますが、併用することで税金を抑えることができます。

(2)iDeCoを60歳、退職金を65歳で受取る場合

65歳定年という会社も増えてきたと思いますが、その場合はiDeCoを60歳で一括で受け取り、5年後に退職金を受け取ると、それぞれの退職所得控除が利用できるため、同じ年に両方を受け取るよりも税金を抑えることができます。これを退職所得控除の5年ルール(※)と呼びます。
※正しくは前年以前4年間という表記ですが、わかりやすく5年とします。

60歳で受け取るiDeCoは、10年の加入期間をそのまま退職所得控除として計算します。その後、65歳で退職金を受け取る際も会社の勤続年数をすべて控除の計算に用います。たとえ、iDeCoの加入期間と勤続年数が重複していても、iDeCoを先に受け取る場合、重複期間の調整はされず、それぞれの退職所得控除を使うことができます。

(3)退職金を受取った後でiDeCoを受取る場合

退職金を先に受け取り、5年空けてiDeCoを受け取る場合は、退職所得控除の重複期間は調整されます。例えば、60歳で退職金を受け取り、65歳でiDeCoを受け取る場合、60歳までの加入期間のうち退職金の勤続年数と重複する部分は吸収されてしまうのです。5年ルールはiDeCoを先に受け取る場合に有効で、iDeCoが後になる場合は20年ルール(※)が適用されます。
※正しくは前年以前19年間という表記ですが、わかりやすく20年としています。またこのルールは2022年4月に14年から19年に変更になりました。

なぜこのように異なるルールが適用されるのかというと、iDeCoは「勤務先の退職」と連動せず受け取りができるためです。受け取り時期を自由に選択できるため、税金の面で制限が掛けられています。

iDeCoの退職所得控除が退職金との重複で仮に0年となっても、退職金の受け取りとは別の年に受取ると80万円の退職所得控除が適用され、超過分の2分の1が分離課税されるので、公的年金等控除を利用するよりも税金が安くなる場合もあります。

出口に向けて戦略を練る

今回は、いくつか代表的なケースで解説をしましたが、他にも確定給付企業年金や公的年金の受け取り方によってもiDeCoの税金は変わります。また税金だけの問題ではなく、運用による資産額の増加との兼ね合いもありますので、iDeCoの出口戦略は、ぜひ事前に研究されることをオススメします。また税金の計算の際には、それぞれの源泉徴収票等が必要となりますので、なくさずに保管しておきましょう。

最後に、この記事では、単純化した計算例をご紹介しましたが、実際には税務署または専門家にご相談ください。

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