“言刃”の主に責任を

 古い映画をたまに見る。「ゆうべどこにいたの?」「そんなに昔のことは覚えてないね」「今夜、会ってくれる?」「そんなに先のことは分からない」…。80年前の名画「カサブランカ」の一場面だが、きざなせりふも往年の名優が言うとさまになる▲そんな粋な会話も、凡人にはちょっとした人生訓に思える。きのうを引きずっても、先のことを考えすぎても、しょうがない。きのうは遠い昔、あすはずっと先…。たまにはそう考えるのもいい、と▲きのうがいつまでも「昔」にならない人もいる。言葉ならぬ“言刃(ことば)”で心を切り付けられた人がそうだろう。傷口が乾かないまま時間が止まる▲インターネット上で、特定の人を狙った誹謗(ひぼう)中傷が後を絶たない。悪質な投稿が心に刺さり、立ち直れなくなる人もいる。交流サイト(SNS)運営業者などに開示の手続きをしても、投稿者の特定に1年ほどかかることもあるという▲今月から手続きが簡略化され、特定にかかる時間も短くなる。ネット上で「匿名」「不特定多数」の森に隠れた“言刃”の主に、被害者が責任を問うことも増えるとみられる▲「そんなに先のことは分からない」。加害者を突き止める日が途方もなく遠くに思えて、泣き寝入りする人も数多い。止まった時計が動きだして、早く先が見えることを。(徹)


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