松村沙友理が“えりぴよ”を経て感じた“ファンの存在” 「うそじゃなかったんだと、実感できています」――「推し武道」ロングインタビュー

岡山県で活動するマイナー地下アイドル・ChamJam(チャムジャム)と、彼女たちを熱狂的に応援するオタクたちの姿を熱く、切なく、尊く描く、ドルオタ青春コメディー「推しが武道館いってくれたら死ぬ」(テレビ朝日ほか)。“推し武道”の愛称で多くのファンから愛されている本作は、2015年より「COMICリュウ」(徳間書店)にて連載をスタート、20年1月にはアニメ化もされた人気作品です。

そして、10月8日から連続ドラマ版“推し武道”がいよいよスタートします。情報解禁から期待の声が上がっている本作で主人公・えりぴよを演じるのは松村沙友理さん。昨年7月に乃木坂46を卒業した元アイドルの松村さんが、お金も時間も、人生のすべてを推しの市井舞菜(伊礼姫奈)に注ぎ込むため、自分の服は高校時代の赤ジャージしか持たない熱狂的なアイドルオタク・えりぴよを体現します。

ドラマの第1話の放送を前に、ここでは主演の松村さんのインタビューをお届けします。元々感銘を受けていたという「推し武道」のドラマ化に対する思い、さらに乃木坂時代に松村さんを支えた“ファンからの言葉”についてのお話を伺いました。

よりリアルにするため、「違和感を感じたら絶対に相談するようにしています」

――地上波連ドラ初主演となりますが、出演が決まった時の率直な感想を教えてください

「この『推し武道』は、私がアイドルだった時代に原作を読んだりアニメも見ていて、ファンの立場に立つ作品に感動したというか、すんなり自分の中に入ってきたので、自分がアイドルを卒業してもアイドルというものに関われることに縁を感じましたし、すごくうれしかったです。でも、自分の中ではそんなに気負いすぎないで、共演者さん、スタッフさんに助けてもらいながらやっているという感覚です」

――座長として緊張することもありましたか?

「自分はまだまだ演技の世界で引っ張っていけるような立場ではないので、プレッシャーを感じて固くなるよりは、皆さんと話し合いながら自分たちなりに作品を作っていけたらいいなと思っていたので、純粋にえりぴよという役を楽しんでいけているかなと思います」

――原作もアニメもご覧になったとのことですが、作品の魅力や面白さについて感じることを教えてください。

「なんだろう…(かなり悩んだ後に)ピュアな心なのかなと思います。えりぴよをはじめ、やっぱりオタクってピュアじゃないですか。推しがアイドルじゃなくてもそうだと思うんですけど、純粋な気持ちで何かを一生懸命応援してる熱さってやっぱり見ていて気持ちがいいし、気持ちの投影もすごくできる。本当に悪いことを考えている人がいないというか、みんな純粋に自分の推しが幸せになることだけを考えている平和な世界観もすごく魅力だと思います」

――ドラマの台本を読まれて、作品の見方はあらためて変わりましたか?

「原作とアニメはリアルなところと二次元っぽいところが上手に混ざっていると感じていて。その表現の仕方が派手だったり、鼻血が吹き出るところの表現は二次元っぽいけど、それぞれの人間の心情はリアルなところが合わさっているんです。今回監督さんともお話したんですけど、このドラマはそれを人間がやることを大切にしようと話していたので、“人と人”というやりとりは大切にしながら取り組めているかなと思います」

――オタクの純粋さが描かれる中で、“泣ける場面”というのもありましたか?

「ありました! アニメを見ている時もそうだったんですけど、そんなに泣けるようなシーンじゃなくても自然と涙が出てきたり、今回の台本でも『泣きながら言う』と書いてなくても、話していて自然と涙が出るシーンが多くて。ピュアだけど恋人とも家族とも違う、その距離感の難しさが作り出す感情の起伏はありました」

――これまではトップアイドルとしてファンから推される立場でしたが、ドラマでは誰かを推す立場の役になります。えりぴよに共感できるところはありましたか?

「やっぱり所々の気持ちとかは、アイドルを10年近くやってきた経験もあるので、よりリアルに感じられているのかなとは思いますし、セリフ一つ一つの意味も自分なりに深く考えられていると思います。自分がアイドルをやってきた分、“アイドルのファン”という立場は、より大切に演じていきたい気持ちがすごく強いです」

――演じるにあたって、ご自身の経験を監督に伝えたりすることはありますか?

「すごくそれはやっています。セリフ一つ一つも薄くなりたくないというか、その意味をちゃんと伝えたいなって思うし、握手会のシーンでも、私が言われたことのあるセリフもあったりしてリアルなのかなと思います。あとは、演出の中で『そのセリフはこうだけど、自分の体験はこうだったので、もうちょっと変えてみたい』と、自分が違和感を感じたら絶対に相談するようにしています」

――具体的にはどんな相談をされたのでしょうか?

「私がアイドル時代に言われたことがあるセリフがあったんですけど、それが台本の中では冗談っぽく書かれていたシーンがあったんです。実際にファンの方が泣きながら話してくれて、『そんなに軽いニュアンスのセリフにしたくない』って相談させていただきました。言葉の重さを一つ一つ大切にしていきたいとお話しました」

――特に印象に残っているセリフを教えてください。

「『人生で初めて胸がときめいたんだ 』というセリフ。あとは『私は舞菜と出会って、変わった』っていうセリフもすごく好きです」

――えりぴよはかなり重めな推し方をするタイプのオタクですが、松村さんならどんな推し方をしますか?

「私、結構ガチ恋系なのかなって(笑)。ずっと二次元が好きだったんですけど、1クール3カ月ごとに自分の好きな人が変わるってずっと言っていて。アクリルスタンドとか画像とか、グッズも集めたり、その3カ月は毎回恋をしているぐらい好きでした。乃木坂の時も、現場でアニメを見ないメンバーにも『〇〇くんがね!』っていう話をしてました(笑)」

――特にハマったキャラクターを教えてください。

「アニメのキャラクターだと、『コードギアス』のルルーシュがずっと好きです。フィギュアも買ってましたし、10周年に映画が公開された時は何回も見に行って会いに行ってました」

――松村さんが推したいと思うアイドルはどんな方ですか?

「皆さん毎回すごく魅力的だったんですけど、釣りとかしてくれるあざとい子はすぐ好きになってましたね(笑)。チョロい系オタクだったと思います」

――舞菜のような一生懸命なアイドルはいかがですか?

「ChamJamってみんなそれぞれ個性が違って、ダンスも踊り方が面白いぐらいに違うんですよ。舞菜ちゃんはちょっと恥ずかしがり屋さんであまりダンスもうまくはないけど、それが逆に目を引かれるというか、彼女なりの一生懸命さが伝わってくるので、めちゃめちゃ推せるなって思います」

「“えりぴよ”という人間に寄り添いたい」――役作りの中にあるブレない考えとは

――えりぴよを演じる上で心掛けていたことはありますか?

「声は低めにしようとずっと心掛けていました。やっぱりリアルな人間っぽさがいいなと思ったので、うそにならないように自分の声を作りすぎないというか、今話してるトーンと同じぐらいの声でっていうのはずっと心掛けていたところかなと思います」

――現場に入ると、自然とえりぴよとしてのスイッチが入りましたか?

「意外とそうでもなくて。現場にいるくまささん(ジャンボたかお)とか基さん(豊田裕大)と話していくうちにえりぴよになっていったなって感じがありますね。現場に入ったら自然とスイッチが入るというよりは、現場に入って監督さんとこれから撮るシーンの話をしていって調節している感じがあります」

――衣装でもあるジャージ姿はある意味トレードマークだと思いますが、衣装合わせでご覧になった時はどう思われましたか?

「あまり自分では『めっちゃえりぴよだ!』という感じが正直しなかったんです。自分の中で二次元の作品が実写化されることがあまりイコールしていないというか。『二次元の作品=実写作品』というのがあまり同じ世界線にないんですよ。だから、性格とか考え方とかは原作にできる限り寄せるけど、えりぴよのビジュアルをあえて完璧に寄せようとはあまり思っていないんです。『えりぴよに似てるね』と褒めていただけることはすごくうれしいですけど、それこそコスプレにしたくないというか。コスプレって見た目を似せるじゃないですか。そうじゃなくて、『“えりぴよ”という人間に寄り添いたい』と思ったので、 見た目よりも内面を近づけたい気持ちの方が強いですね」

――そうだったんですね。人気作品の実写化ということでプレッシャーもあったのでしょうか?

「最初にお話を聞かせていただいた時は、単純に好きな作品だったのですごくうれしかったんですけど、情報解禁された時の周囲の反応がすごく大きくて、その時に『あ、私はとても大変なことをしているな』って実感しました(笑)。やっぱり原作が好きだっていう方も多かったですし、『アニメがすごく良かったからドラマも期待したい』という声がたくさんあったので、プレッシャーではないですけど、自分の中では頑張らなきゃいけないなって思う要素だったと思います」

――内面を大事にしたいというお話がありましたが、あらためてこのドラマでのえりぴよで注目してほしいポイントを教えてください。

「えりぴよは暴走しすぎるところもあって、ちょっと不器用な人だなと思います。舞菜との関係もちょっと空回るところがあるじゃないですか。そのすれ違いの絶妙さを感じてもらえたらと思います。アイドルとオタクって、日常的にお話ができるわけじゃないし、人と人なので、そのすれ違い加減というか、思ってることがちょっと違ったりするリアルさは感じていただけるんじゃないかなと思います」

――原作やアニメを見ていても、えりぴよ側の立場で見るとすごくもどかしいなと感じるところがあったのですが、役を演じていて“もどかしさ”は感じましたか?

「舞菜ちゃんに対してのもどかしさというよりも、実は全部がうまくいっているようなつもりでしゃべっている気がするんです。たぶん、えりぴよも別にもどかしくしようと思ってもどかしくしているわけじゃなくて、えりぴよなりに一生懸命応援してるけどすれ違ってるみたいな。舞菜と実際にしゃべっていても私はあまりすれ違ってる感じがしなくて、その感じがすごく不思議だし、この作品で演じていけばいくほど舞菜との特別な絆がどんどん生まれていっていると感じています」

注目のライブシーン、オタク側はみんな“箱推し”に!?

――ドラマでも原作と同じ岡山でロケを行っていると伺いました。撮影の合間で、岡山を観光されたりしましたか?

「撮影地が岡山のすごく街中なので、日々岡山の良さを感じてるというか、 ちょっとお散歩しただけでもすごく景色が良くて、いい町って思いながら撮影していました。岡山の皆さんも集まってくださって、エキストラの方に方言を教えてもらったりしました」

――印象に残っている方言はありますか?

「それが全然覚えてないんですよ、短かかったので(笑)。私が以前ドラマで広島弁を練習していたことがあって、それで『広島と岡山って言葉が似てますよね』っていう話からいろんな言葉を教えていただきました。あと、私が作品の中で着ているTシャツにも実は岡山弁が書かれてたりして、いろいろと岡山ネタは散りばめられてるのかなと思います」

――アニメでもChamJamが人気の曲を歌うシーンがありましたが、ドラマでのライブシーンを見て感じたことを教えてください。

「やっぱり、びっくりしましたね。アニメのChamJamもすごく好きだったんですけど、実写のChamJamのみんなが目の前で踊っているのを見た時のクオリティーの高さは『うわ、すごいな!』って感じました。ドラマで集まったとは思えないというか、3年間ずっとやってきた一体感みたいなものがあってすごかったです」

――ダンスの踊り方に個性が出ているというお話がありましたが、そういう面でも一つの魅力になっているところはありますか?

「ありましたね。振り付けの先生に聞いたんですけど、先生は『基本のダンスは教えたけど、細かい違いは何も言ってない』とおっしゃっていたんですよ。 だから、その役を演じられている皆さんがご自身のキャラクターを吸い取って、『眞妃(KANO)ってこうやって踊るよね』『優佳(GUMI)ってこうやって踊るよね』というのがしっかり表現されていて、見ていてもすごく面白いんですよ。だから、よくオタク側の皆さんで『今回は優佳を見よう』っていうパートを作って、みんなで見て終わった後に『優佳のここがすごい』という話をして、本当の現場みたいに盛り上がっています。作品の中ではみんな単推しなんですけど、現場ではみんな箱推しになってます(笑)」

――ほかの子を見てしまうのは、オタクあるあるですよね(笑)。

「そうなんですよ! 実は、最初の方はみんな自分の推しばっかり見ていて『自分の推しが最高!』って言ってたんですけど、みんなそれぞれ『いや、俺の推しがここがすごい』って話をしたら、『じゃあ1回全員を見ていこう』となって、月日を重ねるごとにどんどん箱推しになっていってる感じです(笑)」

松村沙友理を支えてきた“ファンの声”

――握手会のシーンでも松村さんの意見が取り入れられているというお話がありましたが、乃木坂時代にファンの方から言われて一番うれしかった言葉を教えてください。

「乃木坂時代に『松村さんと出会って変わりました』という方や、『すごい悩んでいたけど 松村さんを見てすごい元気をもらえました』と握手会で言ってもらえたり、ファンレターをいただくことがたくさんあって。当時は自分に人を変える力があるとは思えなかったけど、今この作品でえりぴよをやってみると、今まで人生に何も彩りがなかったけど、舞菜を応援することで人生が輝いてるから気持ちが分かるというか、この作品と出合ってそれがうそじゃなかったと実感できています」

――では、乃木坂を卒業して1年余りたった今、松村さんから見たファンの方はどんな存在ですか?

「1人の人を推すって特別なことだなと今でも思います。私は自分に自信があまりないので、ファンの方の声を頼りにやってきたんです。だから、卒業してあまり会う機会が少ないのはすごく寂しいです」

――卒業される直前は、握手会がコロナウイルスの影響でなくなったりしましたが、心残りはありますか?

「握手会の代わりにオンラインでお話しする機会があったので、心残りというのはないです。でも、今そういったものがなくなって、寂しさはあるかなとは思います」

――最後に、松村さんが思う「推し武道」のメッセージ性を教えてください。

「人と人のお話なのですれ違ったりもするけど、何かを応援する大切さだったり、自分にとっての大切なものをあらためて感じられる作品なのかなと思います。この作品のえりぴよにとっての舞菜みたいに、ほんの少しでも皆さんが生きていく上での道しるべだったり活力になる作品になったらいいなと思います。原作を見たことない人にも、元々アイドルが好きじゃない人たちにも、刺さるものが何かある作品だと思います」

おまけエピソード&取材後記

――ドラマタイトルにかけて、松村さんが今推しているものを教えてください。

「岡山のモモかな。元々モモがすごく好きで、岡山に行った時に品種がいっぱいあったんですけど、私がたまたま見たのがピンクじゃなくて、すごく黄色のモモが多かったんです。私的にはそれがすごく岡山のモモの特徴だなって思って。いっぱい食べました! おいしかったです!」

インタビュー中、えりぴよという役について、アイドルをやっていたからこそ抱える熱い思いを語ってくださった松村さん。特に、ドラマ「推し武道」という作品に対する取り組み方や役作りでのお話では、時々熟考しながら話してくださる姿勢がとても印象的でした。写真撮影時は、カメラマンがいつシャッターを切っても、まるでえりぴよがそこにいるかのようで、スタッフからも「おお…!」「かわいい…」という声が上がっていました。

【プロフィール】

松村沙友理(まつむら さゆり)
1992年8月27日生まれ。大阪府出身。B型。2011年に乃木坂46一期生として加入。21年にグループを卒業後、ドラマ「愛しい嘘〜優しい闇〜」(テレビ朝日系)、「花嫁未満エスケープ」(テレビ東京系)、「結婚するって本当ですか」(Amazon Prime Video)、映画「ずっと独身でいるつもり?」などの作品に出演。雑誌「BAILA」(集英社)のレギュラーモデルを務め、6月に立ち上げたアパレルブランド「LANTINAM」のブランドディレクターを務める。

【番組情報】

ドラマL「推しが武道館いってくれたら死ぬ」
テレビ朝日
10月8日スタート
土曜 深夜2:30〜3:00
ABCテレビ
10月9日スタート
日曜 午後11:55〜深夜0:25
※ABCテレビでの放送後、TVer、GYAO!にて見逃し配信&Huluにて見放題独占配信

【プレゼント】

サイン入り生写真を2名様にプレゼント!

TVガイドweb公式Twitter @TVGweb (https://twitter.com/TVGweb)をフォローし、下記ツイートをリツイート。
https://twitter.com/TVGweb/status/1578312138149355521

【締切】2022年11月3日(木)正午

【注意事項】

※ご当選者さまの住所、転居先不明・長期不在などにより賞品をお届けできない場合には、当選を無効とさせていただきます。
※当選で獲得された権利・賞品を第三者へ譲渡、または換金することはできません。
※賞品をオークションに出品する等の転売行為は禁止致します。また転売を目的としたご応募もご遠慮ください。これらの行為(転売を試みる行為を含みます)が発覚した場合、当選を取り消させていただくことがございます。賞品の転売により何らかのトラブルが発生した場合、当社は一切その責任を負いませんので、予めご了承ください。
※抽選、抽選結果に関するお問い合わせにはお答えできませんので予めご了承ください。

取材・文/平川秋胡(ABCテレビ担当) 撮影/尾崎篤志

© 株式会社東京ニュース通信社