京セラやKDDIを創業し、日本航空(JAL)再建に尽力した京セラ名誉会長の稲盛和夫さん=鹿児島市出身=が8月下旬、亡くなった。日本を代表する経済人になってからも鹿児島を愛し、支えた「経営の神様」。薫陶を受けた人々に、心に残る教えや思い出を聞く。
■鹿児島大学稲盛アカデミー長 武隈晃さん(64)
私が稲盛さんと話をする時は、いつも「名誉会長」と呼ばせてもらった。京セラで会うことが多く、自然と社員の皆さんと同じ呼び方になった。
初対面は2016年2月。名誉会長らの寄付金で設立され、経営哲学などを学ぶ「稲盛アカデミー」のアカデミー長就任が決まってからだ。本社での約1時間のやり取りは、今でも再現できる。その中で私は、若者が世界に羽ばたけるよう最善を尽くす、と誓った。
エレベーターまで見送ってくれた別れ際、名誉会長は「頑張ってください」と両手で握手してくれた。感じた温かさに思わず身も心も震えた。いい加減な仕事をするつもりはなかったが、はいつくばってでも役目を果たそうと決意した。
その後、少なくとも年1回は活動報告で京都を訪れた。名誉会長は資料をじっくり確認するので、その間の長い沈黙は緊張した。
仕事には厳しいと聞いていたが、学生に対しては思いやる心があふれていた。鹿大での講演をまとめた著書「活(い)きる力」(小学館など)で、それが分かる部分がある。学生へ利他の心の大切さなどを説く中で、時に「ケツをたたいて叱りますよ」と話す場面だ。言葉の端々に学生への慈しみが感じられた。
稲盛フィロソフィー(哲学)の講義を鹿大生全員の必修授業に取り入れ、もう3年目になる。当初は「一経営者の思想を国立大学が必修にするのはどうか」との意見もあったが、「経営史専攻の学者が研究対象にするような存在だから」というのが答えだ。
アカデミーの社会人中心の履修証明プログラムでは349人を輩出し、彼らは県内外で活躍している。これからも名誉会長との約束を守り、若者が羽ばたく場として鹿大を発展させていく。
(連載「故郷への置き土産 私の稲盛和夫伝」より)