はじまりという言葉かがやく

 恋のときめきを詠んだらしい-と書けば少々こそばゆいが、歌人の俵万智さんにきらきらした一首がある。〈朝刊のようにあなたは現れてはじまりという言葉かがやく〉▲一日の始まりを告げる朝刊のように、あなたはすがすがしく目の前に現れた…。恋の始まりを、新聞が届く朝になぞらえたのだろう。一首が収められた歌集「サラダ記念日」がベストセラーになったのは35年前のこと▲時を経て、今はどうだろう。恋の兆しのように-とは言わないまでも、一日の始まりに読む人の心を時にときめかせ、時にハッとさせ、大きく揺らす紙面は作られているか。胸に手を当ててみる▲新聞週間がきょう始まった。新聞は何のためにあるのだろう、と自問して、自分なりの答えはいくつか浮かんでくる。私たちはどんな社会を生きているのか明らかにするため。暮らしに役立つ情報をお届けするため…▲歳月を重ねるうちに、もう一つの考えがより強く、深くなってきた。「喜怒哀楽を読者の皆さんと共にするため」。新聞は乾いた情報を並べるだけでも、得意顔で自説を並べるだけでもいけない、と▲さざ波か大波か、一日の始まりに皆さんの心をいくらか揺らし、動かすような贈り物を。そう胸に刻み、〈はじまりという言葉かがやく〉と、俵さんの歌を心で繰り返す。(徹)

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