この地に生きる5(6)デービッド・ディロングさん(43)=鏡野町 理想の居場所選択を

自然豊かな鏡野町で木工芸作品の創作に励むディロングさん

 高校時代は、自分の芯がしっかり確立したと感じる時期だった。ボートクラブで実力がトップのグループに所属したが、見下すような雰囲気が嫌で自ら下位グループに移った。大きな大会で好成績を収められたかもしれなかったが、自分に合わない環境に身を置く気にはならなかった。

 これまで自分が理想と思う居場所に進む選択をしてきた。2001年の米中枢同時テロで国内情勢が揺れる中、安定した暮らしを求めて日本へ移った。故郷のようにのんびりと暮らせる町がとても気に入り、ずっと住み続けたいと思っている。

 田舎が好きな人、都会が肌に合う人などさまざまだろう。今具体的な夢がなくても、まずは「自分がどんな暮らしをしたいか」を考えてみてほしい。悩むことで自分がどんな人間か見えてくる。選択の結果が失敗でも成功でも、悩んだ経験が先の人生で生きてくる。

 町の生活は「古き良き」暮らしが詰まっている。先人の知恵や近所の人との助け合いなど。これまで町の人たちが積み重ねてきた伝統を素晴らしく思う。ただ人口減や高齢化が課題の地域が生き延びるには古い伝統に固執するだけではいけない。培った特色を生かしながら、外部の先進的な技術や知恵を取り込まなければならない。

 自分の創作も同じ。伝統を土台として大切にしつつ新しいスタイルに挑戦し、伝統を“進化”させることを意識している。「和と洋の融合」をテーマに自分の持ち味を生かそうと取り組んでいる。

 地域には、残って地元でしかできないことをやり伝統を守る人と、外の世界で経験を積んで帰ってくる人が両方必要。願わくばいつかはまたこの地に集まってくれるとうれしいが、まずは自分が理想とする場所へ羽ばたこう。

 デービッド・ディロング 米国オハイオ州出身。大学で日本語を学び、留学生だった妻との結婚を機に2004年に日本へ移り住んだ。東京の海運会社で働いたが、州北部の「田舎町」で生まれ育った気質から都会生活になじめず、自然が豊かで穏やかな暮らしを求めて11年に鏡野町へ移住。翻訳業の傍ら、本やインターネット動画を参考に独学で木工芸を始めた。県重要無形文化財保持者の小椋芳之さん=津山市=らの推薦を受け、18年に日本工芸会中国支部に研究会員として参加。翌年、公募展である同支部展で初出品、初入選した。20年には鳥取県知事賞を受賞している。

=おわり

ディロングさんのメッセージ

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