大工歴50年の技、福井の人気ユーチューバー「正やん」 登録者40万人超、プロ職人からも熱い支持

昔ながらの大工の技術などをユーチューブで配信している「正やん」さんと息子の船井啓太さん。チャンネル登録者は40万人を超える=福井県敦賀市内

 大工歴50年の経験を生かし、昔ながらの建築技術を発信する人気ユーチューバーが福井県敦賀市にいる。3代続く船大工の家で育った「正やん」さん(66)。2020年3月に開設したチャンネル「大工の正やんShoyan」は、登録者数42万1千人を誇り、全国のDIY愛好家やプロの職人から熱烈な支持を集めている。

 正やんさんは中学卒業後、大工の道に進んだ。のみ、かんななどを使った「手刻み」と呼ばれる伝統的な技術を磨き、10年目に独立。これまでに約60軒の家を手がけている。

 動画配信のきっかけは、20年春からの新型コロナウイルスの流行。大学生だった息子の船井啓太さん(24)の留学が白紙になり、「海外の日常をユーチューブで配信するつもりだった。動画制作に興味があり、おとん(正やんさん)を撮り始めた」(啓太さん)。

 正やんさんは当初、「仕事のペースが乱される」と懸念したが、手刻みの技術を動画で記録し、奥深さを伝えることに意義を見いだし、二人三脚でチャンネルを運営することにした。

 動画の撮影や編集は全て独学。他の人気チャンネルを徹底的に分析し、試行錯誤を繰り返した。再生回数や登録者数はすぐには伸びなかったが、「板を割らずにくぎを打つ」「ビスのねじ山がない部分の意味」といった大工の豆知識を紹介する動画がヒットした。情報を詰め込まず、一つの技術や雑学に絞った内容を心がけ、開設半年で登録者数は10万人に急増。1年後には17万~18万人に達した。

 豊富な知識と素朴な語り口がファンを生み、2年目以降も右肩上がりで伸び続けた。正やんさんは「ホームセンターに行くと『いつも見てます』と声をかけられる。みんな見てくれとるんやなあという実感が高まった」と話す。

 啓太さんは「何十年も前の昔話が語れることと、素人である自分の目線が入っていることが大きい」と説明する。正やんさんが使う専門用語を、分かりやすくかみ砕いている。啓太さんはユーチューブコンサルタントとしても活動し、「ユーチューブは動画の“最適解”を探し出すゲーム。当面は登録者数100万人を目指す」と意気込む。

 他チャンネルとのコラボレーションや企業の依頼も増え、オンライン販売したオリジナルのヒノキのまな板はすぐに完売した。正やんさんは「現役でいられるのも、おそらくあと4、5年。職人の新しい形を示しつつ、家を建てていきたい」と話している。

© 株式会社福井新聞社