ハロウィーンの心痛

 東京・渋谷駅を出て、スクランブル交差点を渡ると、よく知られた渋谷センター街がある。「若者文化の中心地」とされる繁華街で佐世保市の観光PRをしていると聞いて、取材したことがある▲十数年前、東京勤務の頃だが、九十九島や佐世保バーガーの電光パネルがにぎやかな通りを飾っていた。古里を売り込もうと、渋谷センター商店街振興組合の小野寿幸(としゆき)さんが始めたと知り、胸が熱くなった覚えがある▲20年ほど前、させぼ四ケ町商店街と「姉妹商店街」の縁を結び、交流してきた。いま81歳で、センター街の振興組合の理事長、高級フルーツの「渋谷西村總(そう)本店」取締役、在京の佐世保出身者でつくる東京佐世保会の会長を務めておられる▲18歳で離れた佐世保を思い、もう長いこと見守ってきた渋谷を思う。愛情が深いぶん、ため息も深いのだろう。電話で話を伺うと、コロナ禍の自粛ムードが薄れた今年のハロウィーンで「渋谷の人出は必ず増える」と小野さんは言う▲コロナ前は「暴動」といえる騒ぎもあった。主催者が存在せず、自然発生の集まりだから“作法”はなく、歯止めもきかないという▲佐世保の恩人が「悔しい」と心を痛めるさまは忍びない。眉をひそめるだけでなく、東京の繁華街が荒れ果てないようにと、こちらも遠くから案じる。(徹)


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