岡山城「面白さ五感で味わって」 展示監修 歴史学者磯田さんに聞く

磯田道史氏

 「令和の大改修」を終えた岡山城(岡山市北区丸の内)が3日、装いも新たに全面オープンする。天守閣の展示を監修したのは岡山市出身の歴史学者磯田道史さん(51)=京都市。重視したのは「人物」「建築」「現物」「体験」の4点といい、1日までの報道インタビューでは「面白さを五感で味わえることを重視した。岡山に来て、城を見てよかったと情報発信してもらえる城に育ってほしい」と期待を寄せた。

 ―天守閣は1966年の再建以来初の大規模改修だった。

 ターゲットとしたのは家族連れだ。専門家が専門性を披露するだけでなく、専門的知識がなくとも大人から子どもまで楽しめる仕掛けを用意した。(10月下旬開催の子どもツアーで)子どもたちが喜ぶ姿を見て報われた思いがした。

 ―関ケ原の戦いを描く戦国合戦シアター、城下町発展の経過をたどるプロジェクションマッピングなど多彩な映像設備が印象的だ。

 シアターはこの映像のためだけに俳優が熱演した。プロジェクションマッピングは(城の西にあった)石山という砦(とりで)が現在の岡山の街になるまでをCGで描いた。時系列の歴史が映像と音で表現されたわけだ。AI(人工知能)による城や藩主の写真のカラー化にもこだわった。見ればその時代との距離感が変わるはずだ。

 ―2階には博物館級の高性能な展示ケースが整備された。磯田さんが岡山市に寄託した文化財も並ぶ予定だ。

 再建した鉄筋の天守だからこそ頑丈で精密な機械を置くことができ、展示の幅も広がった。来場者が「本物」を見る体験はとても重要だ。一方、新しい品を展示し続けなければリピーターは維持できない。市には引き続き内容を充実させ、入場料以上に中身のある城にしてほしい。

 ―岡山市の御野小、岡北中に通った。監修に込めた思いとは。

 幼い頃は1人で散策し、大好きな月見櫓(やぐら)の絵を描いた。祖先は城に時々お勤めに上がっていた侍でもある。監修に際しては「私がこの展示を良くしないで誰がするんだ」という使命感のような気持ちもあった。

 ―県都のシンボルとして岡山城はどんな存在であるべきか。

 岡山城という「船」は今、進水式を終えたところだ。学芸員という「乗組員」、展示という「燃料」の力で前進してほしい。市民の皆さんも巻き込み、訪れた人たちが口コミやSNS(交流サイト)で自ら魅力を発信したくなる城に育つよう期待している。

 いそだ・みちふみ 岡山市生まれ。大安寺高卒、慶応大大学院文学研究科博士課程修了。静岡文化芸術大教授などを経て2021年から国際日本文化研究センター教授。著書に「武士の家計簿」「感染症の日本史」など。

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